感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第48回 2010/04/06   

  原 句  連れ立ちて賑はふ堤木の芽晴


 早春の季語である「木(こ)の芽」には、多くの傍題があります。「芽立ち」「芽吹く」「芽ぐむ」、また「木の芽時」「木の芽山」「芽吹山」「木の芽風」「木の芽道」など、傍題というよりバリエーションとして、ゆるやかに使われています。
「木の芽晴」というのもそんなバリエーションのひとつ。まだ芽吹きの始まったばかりの木々の枝を透かして、洗い立てのような春の空がひろがっている景です。
 この句は、そんな早春の土手に、何組かの人たちが賑やかに言葉を交わしながら散策している様子です。「連れ立ちて」という描写に、春の陽気に誘われるようにして出かけてきた人たちの、心やすさがよく出ています。土手にはいぬふぐりなども咲いているでしょう。
 気になるのは中七の「賑はふ」という表現で、ここは描写というよりは説明になってしまいました。「堤」という場所の報告と相俟って、情景を想像させられるというよりは限定されてしまった感じです。
 もう少しのびやかにうたってみましょう。

  添削例1  連れ立ちてゆける堤や木の芽晴

 バリエーションを工夫すれば、

  添削例2  連れ立ちて賑はひにけり木の芽道




  原 句  遊歩道ただ黙々と芽木の空


 この「芽木」というのも「木の芽」の傍題ですが、あまり使われない言葉です。無理に縮めた感があるので、例句が歳時記に載っていたとしても、あまりおすすめできないいい方です。
 この句は前句と違って、ただ一人木の芽の道を歩んでいるさびしげな、あるいは憮然とした表情の人物が見えてきます。枝の間に見えるのは曇天かもしれません。
 この句は上五と下五がともに体言なので解釈に揺らぎが出てきますが、上五の体言で切って読むと、「黙々と」は「芽木の空」にかかってなかなか詩情が感じられます。

  添削例1  黙々と木の芽の空のひろがりぬ

 擬人法の表現です。

  添削例2  木の芽道ただ黙々と歩みをり

 原句に近い形です。


 水平線

(c)kyouko ishida
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