第88回 2011/11/15

  高濱虚子の100句を読む     坊城俊樹



   吾も亦紅なりとついと出で    虚子
        昭和十五年九月五日
        玉藻例会。高島屋特別室。

 兎にも角にもおもしろい表現をした。
 同日に、

  吾も亦紅なりとひそやかに        『句日記』

 この句とセットで一作品を形成していると言っていい。このときの景色は、山廬に憩う作者に山霧が襲う。旅の中のことである。そこに小鳥も囀り、吾亦紅もまた咲いている。
 掲句は吾亦紅の文字を分解して、擬人法によるおもしろさを狙ったものだ。
 たしかに、吾亦紅という季題の雰囲気はよく出ている。が、それにしても大胆不敵で花鳥諷詠で写生の俳句からは遠い措辞ではないか。
 『虚子秀句』では、

  赤きものつういと出でぬ吾亦紅

 が見えている程度で、他の句はない。吾亦紅というイメージは虚子にとって、「赤・紅」か「つうい」という感覚しか認めていないの如しである。
 しかし、このイメージは強烈で、吾亦紅の句というとこの句を思い出す。「ひそやか」というイメージでは本来の雰囲気とはほど遠い感覚なので、『五百五十句』にも『虚子秀句』にも入れなかったのである。
 季題を分解する叙法は、とにかく伝統的な俳句の手法としては嫌われる。ただし、虚子の謂う「とりおき」すなわち、例外というものはやはりあるもので、俳句とはさほどそこに目くじらを立てるものではないようだ。
 でも、他人の句を選句するときなどはかなり厳格であった虚子であるのに不思議な気持ちにはなる。
 女性の主宰の「玉藻」の句会ということで、そこのあたりはフレキシブルにフレッシュにナウ(死語か)くしたのかもしれない。
 
 

(c)Toshiki  bouzyou






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