「17音の小宇宙―田口麦彦の写真川柳」
 
第15回 2009/10/02



    



 私は40年間のサラリーマン生活を送った。
 もの書きの仕事を始めたのも、それと同じ時期なので、背広の内ポケットにはいつも二本のボールペンをさしていた。
 愛用のボールペンが一本と赤と黒二色が書き分けられるボールペンが一本である。
 それは仕事上の書き分けのため、編集、校正などに使うためなど必要に迫られてのことではあったが、ある日ふと、それだけの目的で二本さしているのではないことに気づいた。
 これは、ひょっとして自分自身の変身のために使っているのではと思いをはせたのである。いわば自らの深層心理を覗き込んだというわけである。
 サラリーマン生活に喜怒哀楽はつきもの。それを直接的に詠んだのが「サラリーマン川柳」なのだが、私は少し斜め後ろから切ってみた。タテマエが黒色ボールペンなら、赤黒二色のボールペンはホンネである。
 サラリーマン社会の人間関係は、実にこのタテマエとホンネの使い分けで成立していると言える。いやいやサラリーマンだけではありますまい。一番変わり身がうまいのは政治家だろう。「私はウソをつきません。」というウソをホントに演じきるのだから。


(c)Mugihiko Taguchi

前へ 今週の川柳 HOME