火の歳時記

片山由美子

今回から「火の歳時記」を書き始めることになりました。
 言うまでもなく、火がなければ人間は生きていけないでしょう。ギリシャ神話では、人間に火を伝えたのはプロメテウスだということになっています。火がいかに重要なものかを示す話ですが、世界の多くの神話に火は登場し、祭や儀式に欠かすことはできません。日本でも火祭が各地でさまざまな形で行われています。ここでは、そんな宗教や儀式における火と人間について考え、行事などを紹介することも一つのテーマにしたいと思っています。
 火は、すべてを燃やすもの。大自然の猛威である火山の爆発や森林火災、日常生活の煮炊きや暖房は言うに及ばず、古い手紙を燃やし、ときには心も燃え上がらせます。そうした炎としての火。さらには赤や緋色など色としての火、あるいは比喩としての火など、さまざまなシーンで出会う「火」をめぐる俳句を紹介してゆきたいと思います。
 できるだけ多くの作品に触れるつもりですが、俳句の世界にとどまることなく探索をしてみたいと思います。火についてのエッセイとしてお読み頂ければ幸いです。


  【火の路】第1回


NO1 平成20年1月15日

 ずいぶん昔のことになるが、NHKテレビで松本清張の「火の路」がドラマ化されたことがある。清張はある時期から日本の古代史への興味を深め、独自の研究を進めていた。「火の路」はその成果の一つで、古代の日本にゾロアスター教(拝火教)が伝わっていたという大胆な仮説に基づいて展開する物語である。ドラマは和田勉の演出だったと思うが、ミステリーめいた不思議な世界に私はたちまち引き込まれてしまった。土曜ドラマだったため、早く一週間がたたないかと待ち遠しくてたまらないほど夢中になった。
 この物語で重要な役割を果たしているのは飛鳥の酒船石である。丸や直線が彫られた大きな石がいったい何に使われたのかはっきりしていない。それを清張はゾロアスター教の儀式に使われたと考えた。そう言われてみれば、この巨石の不思議さは宗教的なもののように思えてくる。ゾロアスター教と酒船石、その不思議な組み合わせは私の中に深い印象として刻まれた。


 (c)yumiko katayama

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