火の歳時記
片山由美子

 
  【火の路】第2回

NO2 平成20年1月22日

 2000年以来、年末年始は海外で過ごしてきたが、2004年12月、イランへ出かけた。そして、その旅で計らずもゾロアスター教の聖地を訪れることになったのである。現在のイランは国民のほとんどがシーア派のイスラム教徒で、宗教が政治に大きな影響を及ぼしていることは周知の事実である。しかしながら、信教の自由は保障されており、キリスト教の教会もあれば、紀元前6世紀に生まれたゾロアスター教も一部の地域で信仰が受け継がれている。
 松本清張説が唐突な印象を与えたのは、ゾロアスター教が日本人にはほとんど馴染みがなかったからに違いない。ゾロアスターよりツァラトゥストゥラのほうがまだ聞き覚えがあるだろうか。ニーチェの『ツァラトゥストゥラはかく語りき』のタイトルくらいは知っている人が多いはずだから。じつはこのツァラトゥストゥラとは、ゾロアスターのドイツ語読みなのである。
 ところで、自動車メーカーのマツダは創業当時の経営者であった松田家の名前を取ったものだが、MATSUDAではなくMAZDAであることを不思議に思った人はいないだろうか。じつはこれはゾロアスター教の最高神であるAhura Mazda(アフラ-マズダあるいはマツダ)からとられたものなのである。松田をMAZDAとした発想はなかなかのものである。ペルシャ語でアフラは神、マズダは知恵の意で、アフラ-マズダは善と光明の神にして創造主と崇められている。写真はこのアフラ-マズダの像をかたどった燭台である。
大きく開いた翼が特徴で、マツダのシンボルマークはこの翼を表している。因みにスポーツ用品メーカーのナイキのマークも翼をデザインしたもので、こちらはギリシャ神話の勝利の神ニケ(ルーブル美術館の大きなサモトラケのニケの像が有名)である。Nikeは英語ではナイキと発音される。
 意外なところに、ゾロアスター教とのつながりがあるものである。イランの話に戻るが、ゾロアスター教の聖地はヤズドという。地方の中都市といったところで、市内には拝火教神殿があり、紀元前からの火を絶やさずに燃やし続けている。いまでは、他の地域に住むイラン人が訪れるような観光スポットになっているらしい。とはいえのんびりしたもので、我々が訪れた日の午後、門の前でしばらく待たされた挙句、今日は係りの人間がいないので見学できないと言われた。仕方なく次の日にもう一度出かけ、現地のガイドが担当者に前日は見学時間内なのに何故いなかったのかと追求すると、風邪気味だったので家に帰って寝てしまったと言う。神殿とはいっても、いまでは番人のおじさんの都合で閉館になってしまうような施設なのだ。ともあれようやく入場することができ、ガラス越しの永遠の火を前にしたときには感慨深いものがあった。
     永劫の涯に火燃ゆる秋思かな 野見山朱鳥  
   
 
 (c)yumiko katayama
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