火の歳時記

NO81 平成21825


片山由美子

 
  【火の歳時記】第39回 吉田火祭

 毎年八月二十六日に行われる富士山の祭がある。吉田の火祭として知られるが、山梨県富士吉田市の北口本宮富士浅間神社と境内にある諏訪神社両社の祭礼がそれだ。富士山は信仰の山であり、夏の登山も富士権現の奥の院に参詣することが本来の目的だった。七月一日(かつては陰暦六月一日)の山開きからほぼ二ヶ月、この火祭によって富士詣の季節は終わり、山じまいとなる。
 神社ではまず神事が行われ、神主・氏子・神輿を担ぐ勢子が御祓いを受ける。その後、御神霊が移された神輿が出御し、市内を練り歩く。二基のうちの一基は富士山をかたどったもので「お山さん」と呼ばれる。夕刻、神輿が市中のお旅所に到着すると、上吉田の御師の家と町筋の家々の前に立てられた高さ三メートル、直径八十センチの大松明七十本あまりに火が点けられ、市内の通りにも井桁に組んだ松明が焚かれると、あたりはさながら火の海である。


 また、五合目から八合目までの山小屋の前でも松明に火を点すと祭は最高潮を迎え、火は夜空を焦がさんばかりとなる。この祭の由来は定かではないが、火の中で出産したと伝えられる富士山の祭神、木之花咲耶姫命に由来するともいわれ、鎮火祭、火伏祭ともいう。ともあれ、登山を無事に済ますことができた感謝を捧げるのである。
 翌日は神輿が神社に帰る芒祭が行われ、すべての神事が終了する。

  火祭や富士秘めし闇鎮めたる          桑田青虎
  火祭りの火守りの打つや不尽の水        加藤 守
  火祭の火を守り路地に老いにけり        柏木去孔
   
 
 (c)yumiko katayama

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