火の歳時記

NO83 平成2198




片山由美子

 
  【火の歳時記】第40回 土用灸


  みそ灸もにんにく灸も土用灸        後藤比奈夫

  「諷詠」8月号の主宰作品より。
  土用は、立春、立夏、立秋、立冬の前十八日をいい、四季それぞれにあるが、いまでは立秋前の十八日、つまり夏の土用をいうようになっている。一年でもっとも暑い時期であり、体力が衰えやすいことから丑の日に鰻を食べたりするのだが、よりによってそんなときに灸をすえるというのだから驚く。土用の灸は特効があると古くから信じられてきた。

  医者ぎらひとほして母の土用灸       渡辺かつじ

 熱そうだが、医者に行くよりいいというひともいるらしい。
 焙烙に艾を入れて火をつけ、頭にのせる焙烙灸は頭痛に効くという。それで知られているのが京都洛西の三宝寺である。笠のような大きな焙烙には悪霊退散の経文が書かれており、銘々がそれを両手で押さえ、いくつかの艾を乗せて火をつけてもらう。何百年も行われてきた光景で、子どもも参加しているところを見るとそう熱いわけではないらしい。頭のてっぺんには百会というツボがあり、これは体のエネルギーがひとつになる重要なところだそうで、温熱でじわじわ刺激するのがいいらしい。

     

  凡夫には凡夫の熱さ焙烙灸         鈴木一明
  土用灸ほとけ信じて耐へてをり       清水螢児


 という句を見ると、やはりつらそうな気もしてくる。

  耳たぶのつぼにも一つ土用灸        穴澤伊都子
  顔四角はた三角に土用灸          長谷川杜人
  土用灸鐘打つて午後はじまれり       小峰途上
  秘めごとのひとつ三里の土用灸       新井土筆
  癇の虫やはらひでをり土用灸        白数康弘
 



 
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