火の歳時記

NO93 平成21128




片山由美子

 
  【火の俳句】第8回 比喩(2)


  矢狭間より火急の声の法師蝉           鷹羽狩行
 
 この句の「火急」のように、火という言葉、あるいは字を用いた比喩や成語は少なくない。それを使っている俳句をみてみたい。

  照鷽や木簡に兵十火ほど             神蔵 器

 発掘の出土品の木簡に「兵十火」の文字があったというのだが、「兵十火」とは何か。じつは兵の数を記しているのである。中国古代の兵制で「一火」は兵十人を意味した。つまり「兵十火」は百人ということになる。ちなみに「火伴」という語がある。これは「一火」の十人の仲間ということで、「同伴者」の意味もある。

  火だるまの秋刀魚を妻が食はせけり        秋元不死男
  飛火してことし洲に咲く曼珠沙華         鷹羽狩行
  山中に火を飼ふごとし夏炉焚く          鷹羽狩行
  夕蝉の火の声やがて水の声            鷹羽狩行

 「火の山」といえば火山のことだが、阿蘇山などはまさに「火の山」と呼ぶにふさわしいのではないか。

  火の阿蘇に幻日かかる花野かな          野見山朱鳥
  火の山の声はじきあひ夏雲雀           鷹羽狩行
  火の山のわが丈を越す草いきれ          鷹羽狩行

 ところで、つぎの言葉は何を意味するだろうか。答はあとに。
  ①火雲 ②火辰 ③火候 ④火輪 ⑤火相 ⑥火脚 ⑦火入れず ⑧火の内




①燃えたつような夏の雲 ②蠍座のアルファ星、アンタレスのこと ③火の燃えかげん、修養・努力の程度 ④太陽 ⑤火の元、火の熾り具合(茶道) ⑥火の燃え広がる速さ
⑦新酒 ⑧忌中




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