火の歳時記

NO92 平成21121




片山由美子

 
  【火の俳句】第7回 比喩


  初鶏の火の声あげて闇の中              鷹羽狩行
 
 火を比喩として使った句の例である。初鶏のけたたましい声を「火の声」と断定した隠喩が効果的である。以下、鷹羽狩行の作品から。

  鉦叩けふのこころの火を落す             鷹羽狩行

 これも隠喩の句だ。誰もが「こころの火」を抱いて生きている。そして一日の終わりにはその火も落として眠りにつくのだという。

  寒梅の切り火のごとき一花かな            鷹羽狩行

 寒中から咲き出す梅の花の一輪をクローズアップした。くっきりと浮かぶその花を「切り火」と見たのは真っ赤だったからだろう。「寒梅」ならではの比喩がきいている。

  大寒や流す友禅火のごとし              鷹羽狩行

 友禅染めは寒中の水にさらすと発色がよいという。冷たい川の中へ入っての厳しい作業である。水中に見える柄が「火のごとし」という比喩の意外性に虚を衝かれる。色の鮮やかさをいっているのだが、「水が燃え立たす火」という発想の飛躍が眼目である。

  餅花を花火ちらしに加賀の国             鷹羽狩行

 前句もこの句も金沢で詠まれたもの。加賀の国の、と聞くと何やらゆかしいもののように思えてくる。八方を向いている紅白の餅花を花火のようだと思ったところから出発し、「花火ちらし」の造語を思いついたのだ。「火花ちらし」ではない。その違いはイメージを思い浮かべればおのずと明らかである。

  火の筆勢そのままに雪大文字             鷹羽狩行

 京都五山の送り火のひとつ、大文字が行われる東山の如意ヶ岳の山腹には「大」のかたちに木が取り除かれている。冬、そこに雪が積もり雪の大文字が浮かび上がっているという美しい光景である。「火の筆勢」が、本来の大文字を彷彿させる。


 (c)yumiko katayama

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