感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第29回 2009/08/30   


  原 句  海が吠え空が咬みつく野分中

 野分は野の草を吹き分けるほどの強風で、台風の大風のことも野分といいます。初秋から仲秋にかけて多い現象でしょう。
 この句は、野分によってすさまじい形相を見せる海と空を、「吠え」「咬みつく」と、まるで獣のように見て、思い切った表現をしています。
 作者の驚きがあり、素朴な見立てとして魅力的な作品だと思います。
 気になったのは下五の「野分中」です。
 おそらく、海も山も野分の中にあるとして実直に表現したものと思われますが、説明になってしまい、折角の思い切った表現が生きません。
 まるで海が吠え、空が咬みつくような、そんな野分であるなあ……という意味でよいのですから、詠嘆の切字を使う方がいいと思います。

  添削例  海が吠え空が咬みつく野分かな


 

  原 句  混み合へるホームの果てに野分雲

 通勤の混雑でしょうか。それとも強風による電車の遅れが出ているのでしょうか。刻々と流れてゆく雲に目を走らせた作者。人混みの中にいながら、どことなく孤独を感じさせます。
 そんな印象なのは、「ホームの果て」という表現がはるかな地平線までを連想させて、天地の広さがみえてくることに起因するのかもしれません。
 一点だけ気になるのは「果てに」の「に」という助詞で、やや余情に欠けたところ。

  添削例  混み合へるホームの果ての野分雲




 水平線

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