感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第31回 2009/09/15   


  原 句  秋帽子日当りながら消えゆけり

 「夏帽子」「冬帽子」は季語として扱われます。
 夏帽子は強い日差しを避けるため、冬帽子は防寒用と、どちらも実用的な生活の中の季語です。
 「春帽子」も、本来冬の季語である「ショール」「セーター」「手套(手袋)」などが、「春ショール」「春セーター」「春手套」というように、まだ寒さの残る頃の季語として詠まれていますから、「春帽子」を季語として収録した歳時記もあります。それだけでなく、春の帽子は、春の到来に心が弾むような心持ちがして、詩的でもあります。
 ただ、「秋帽子」という季語はありません。
 秋に入ったもののまだ日差しは強く帽子を被ることは多いでしょうが、どこか中途半端な感じはあります。「秋扇」ほどには季節感や詩情が感じられないのではないでしょうか。
 それでもこの句にはちょっとした魅力がありました。
 ある人物が遠ざかってゆき、角を曲がったか何かして見えなくなったのでしょう。秋の澄んで強い日差しがその人の帽子を照らしている様子を作者はしばらく眺めていたのです。
 この場合は強引に「秋帽子」という季語を作ってしまわないで、「秋の帽子」とすれば、違和感がないでしょう。上五の字余りはそれほど気になりません。言葉に無理をさせるより、字余りにした方がいいのです。

  添削例  秋の帽子日当りながら消えゆけり


 

  原 句  秋揚羽吾とワルツを踊らうか

 この句も同じ作者のものです。
 「秋蝶」という季語はありますが、「秋揚羽」とはいいません。ただ「秋蝶」といった場合、小さな蝶なのか大きな蝶なのかわかりませんから、作者としては「揚羽」としたかったわけです。それなら「秋の揚羽」でいいでしょう。
 また下五「踊らうか」は「踊らんか」と直してみました。蝶に対して声を掛けているような感じで作者の淋しさが伝わってくるように思いますが、いかがでしょうか。

  添削例  秋の揚羽吾とワルツを踊らんか




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(c)kyouko ishida
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