感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第32回 2009/09/29   


  原 句  落蝉にどんぐりの実を供へをり

 「落蝉」は、寿命を終えて地面に落ちた蝉のことです。たいていは仰向けに落ちていて、死んでいるかと思うと、ジージー叫びながら激しくもがくものもいて、哀れです。
 蝉は羽化してから一週間ほどで死んでしまいますから、夏でも落蝉をよくみかけますが、蝉は短い夏の象徴としてとらえられることが多いので、落蝉は秋の季語として詠まれます。
 『広辞苑』にも載っておらず、歳時記でも収録されていないものが多いようですが、よく使われている季語なのではないでしょうか。
この句はそんな落蝉を見かけた人物が、蝉を哀れに思い、拾ったどんぐりをそのかたわらに供花のように置いた所作を詠んでいます。作者自身の所作かもしれません。
 心情のよくわかる句ですが、「供へをり」でやや説明的になっています。素直といえば素直ですが、説明してしまえばそれまでで、発想の幼さが目立ってしまい、俳句として鑑賞に耐えるかどうか疑問です。
 一歩退いて、客観的に景を描いてみましょう。

  添削例1  落蝉にどんぐりの実の置いてあり

 自身の動作としてなら、

  添削例2  落蝉にどんぐりの実を置いてきし

でもいいでしょう。


 

  原 句  法師蝉はたと鳴きやむ残暑かな

 法師蝉は蜩とともに、秋の蝉として詠まれます。
 実際には蜩は梅雨の頃から鳴き始め、「梅雨蜩」などと詠まれることもありますが、法師蝉はたしかに立秋を過ぎてから鳴き出し、ほかの蝉より遅く羽化するようです。
 この句は、「法師蝉」「残暑」と季重なりになってしまいました。季語が一句に二つ以上入ってもかまわない場合もありますが、この句の場合はどちらも強い季語であり、法師蝉には残暑が、残暑といえば法師蝉の声がすぐに想起されてしまいます。

  添削例  法師蝉はたと鳴きやむ日差かな

などとすれば重複感はなくなります。



 水平線

(c)kyouko ishida
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