感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第44回 2010/02/09   


  原 句  冴える夜はペダルの声も白い息

 「冴える」「息白し」ともに冬の季語ですが、寒い夜、塾や部活動を終えて家路についた少年たちが、自転車のペダルを踏みながら声を交わしている……そんな情景を想像しました。
 ただ、「ペダルの声」という省略にはやや無理がありました。「自転車」といい、何か動作があれば、自転車に乗った人を想像させますので、まずは「自転車」としてはいかがでしょうか。
 また「白い息」は、季語として使う場合「白息」か「息白し」としたいところですので、はじめに「冴ゆ」の季語にしぼってみます。

  添削例1  冴える夜の自転車声を交はしゆく

 意味は通りやすくなったようですが、説明的で散文のようです。切れ字を入れ省略をして、文語的な表現にしてみます。

  添削例2  冴ゆる夜や自転車声を交はしつつ

 さて、ここでもっと別の推敲をしてみます。この句の面白さはどこにあるでしょうか。作者は何に目を引かれたでしょうか。
 たった一つのことに焦点をしぼってみます。

  添削例3  自転車の白息あげて来たりけり

 「ゆきにけり」とも詠めます。白息をあげているということで、一生懸命漕いでいる様子、または複数の人が言葉を交わしながら来る様子など、生き生きとした情景が伝わってくるのではないでしょうか。

  添削例4  自転車の夜の白息をあげて来る

 こうすると夜の情景に戻ります。
 自分が描きたかったことをもう一度思いだし、余分なものをどんどん捨てていくと俳句は明快になり、言葉も力強くなります。


 水平線

(c)kyouko ishida
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