感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第51回 2010/05/25   


  原 句  栃の花ほろと降りつぐ閑かなる

 木々の花が美しい季節。みるみる若葉をひろげたトチノキが、円錐形の白い花を、まるで燭台のようにかかげました。
 トチノキは公園などにも多く、また街路樹としても植えられています。このごろでは、ベニバナトチノキという淡い紅色の花もみかけるようになりましたが、山地などで自生するトチノキは緑がかった白い花です。花期は長くなく、気づくともう散り始めています。秋には栗に似た実をつけます。
 この句は、作者と花季のトチノキとが閑かに対峙している時間と空間を感じさせて詩情がありますが、「ほろと降りつぐ」という描写が今ひとつ不正確に感じられました。
 「ほろほろと降りつぐ」なら自然な感じですが、「ほろと」という擬態語が瞬間を言い止めているので、「降りつぐ」という継続の表現にふさわしくないのではないでしょうか。
 一句としては瞬間を言い止めた方が臨場感が出ます。

  添削例  栃の花ほろと降りたる閑かなる






  原 句  若楓清き流れに黙しけり
 
 カエデの若葉も私たちの目を引きます。「若楓」は若葉の楓。青葉の楓として「青楓」ともいいます。
 小流れの上に覆い被さるように若葉をひろげた楓。黙ってそこに佇む作者でしょうか。楓の木が「黙し」ているように感じられたのでしょうか。どちらとも感じられるところが、この句の場合は味わいになっています。
 残念なのは「清き」の形容で、まさに言わずもがなです。

  添削例  若楓流れに黙しゐたりけり



 水平線

(c)kyouko ishida
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