感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第57回 2011/1/25   


  原 句  赤き実の弾けひとりの女正月
 
 「女正月」とは、正月十五日のことで、「小正月」の日をいいます。新年の準備に追われた年末、来客があって慌ただしかった正月が過ぎ、主婦たちが一息つく頃というので「女正月」ですが、もともとは一日の正月を男正月というのに対して十五日の小正月を、それより小さいという意味で女正月と呼んだそうです。ともあれ現在では、一般に女性たちが気兼ねなく新年を祝う日として詠まれています。「おんなしょうがつ」とも「めしょうがつ」とも読みます。
 この句は、そんな賑わいを余所に、作者が一人で女正月を過ごしているという句で、淋しさが滲みます。「赤き実の弾け」で女性らしいあでやかさを添えているところが大変優れていると思いました。
 ただ、私にはどうも「ひとりの」という言葉がひっかかって、句会ではとれませんでした。この句では意味としても必要かとは思いましたが、口当たりの良い言葉で何気なく使うことも多いので、安易な気がしてしまいました。
 出来ることなら「ひとりの」という状況は、読者の想像にゆだねたいものです。

  添削例  紅の実の弾けたる女正月

でいいと思いますが、さて、これだと賑やかな集いを思うでしょうか。私はそうでもないだろうと思います。「紅」のあでやかさにはどこか冷たさもあるように感じるからです。


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  原 句  冬天の一機のみゆく松の先
 
 「冬天」は冬の空ですが、硬質な印象を受ける言い方で、青く冷たく突き抜けてゆくような心持があります。「松の先」という具体的な描写により作者の立っている場所も想像できそうで、なんとなく味わいがありました。
 ただ、「…のみゆく」で強調しているため重複感がありました。「一機」だけでもう十分なのではないでしょうか。

  添削例  冬天の一機ゆきたる松の先



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(c)kyouko ishida
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