感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第56回 2011/1/18   


  原 句  寒紅梅下に来たれば日翳りて
 
  一月ともなれば、そこここで梅が咲き始めます。冬のうちに咲き出すこれらの梅を、「早梅」「寒梅」、また普通に「冬の梅」として詠みます。それぞれ印象の異なった季語ですので、どれがふさわしいかよく考えて詠んだ方がいいと思います。
 この句の「寒紅梅」は極寒の時期に咲いた梅で、とくに「寒の内」に咲く梅と感じる方が自然でしょう。寒中に開いた八重の紅梅を見つけると、春のそう遠くないことを感じて嬉しくなります。
 さて、この句は、そんな紅梅を見つけて歩み寄ったところ、今まで紅梅に燦々とあたっていた冬日が翳ったという瞬間を詠んだものです。「ああ、もう咲いている!」と喜んだ次の瞬間の、ふとした心の翳りまで感じられて、心を惹かれました。「昃(ひかげ)れば春水の心あともどり 星野立子」という句がよく知られていますが、同じような心持ちでしょう。
 中七の「下に来たれば」にそこまで歩んでゆく時の思いがこめられていて、梅は咲いたがまだまだこれから寒い日が続くのだ、と改めて思いなおすような気持ちが伝わってきますが、「下に」は省略した方が自然な流れに落ち着くのではないでしょうか。

  添削例1  寒紅梅歩み来たれば日翳りて

 また、中七の表現が硬質なので、次のようにするともう少しやわらかい雰囲気になります。

  添削例2  寒紅梅歩み来たれば日の翳り

 水平線


  原 句  早梅の一輪人を引きとどめ
 
 この句は「早梅」が似合っていますが、「引きとどめ」という強い擬人法に理が感じられてしまって味わいを損ねています。

  添削例1  早梅の一輪人をとどめけり

 または、

  添削例2  早梅の一輪に人とどまりぬ

でしょうか。理を感じる擬人化はなるべく避けて、見たままを詠むように心がけると、一句の格調も高くなります。



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(c)kyouko ishida
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