「絆」―家族で楽しむファミリー句会 第10回

2009年3月31日 場所 自宅



 こんにちは、佐怒賀家です。またまたのご無沙汰です。
 さて、突然ですが、私こと「おとう」直美は、この3月をもって退職いたしました。以前より、50歳定年を人生設計の大きな区切りとして考えていましたので、それを実行したわけです。ということで、今回は、その退職を記念(?)して、無理矢理に行った、題して「おとう退職記念句会」の報告をさせて頂きます。

 なあらんだチューリップの芽退職す         直美(通称:おとう)
 連翹の(かげ)の三尺けふ退職
 糸桜半分咲いて最後の日
 肩書を捨つれば揺れて土佐水木
 無職なる(おとこ)が踏んで春の土


 春眠の顔に外出告げて行く             由美子(通称:ままい)
 土筆出る怪訝な猫の顔の前
 花曇り猫の毛並みのぱさついて
 早朝の曲がり角にはいぬふぐり
 意外にも土筆四本出揃ひぬ
 あんず散るほどの月日の過ぎてをり
 花三分行つたり来たり午前午後
 ほろにがの菜の花に塩振つて出す
 揚げたての衣ふはりと蕗の薹
 黄水仙かたまり咲いてゐて不安


 新生活走りまわって春の風             琴美(通称:ねね)
 拝啓と何度も書いている三月
 正座して文書く背中に春陽受く
 腹出して尾をふる犬も花粉症
 つくし出る次はさくらかたんぽぽか
 三毛猫の口元ゆるんで木の芽時

            
 庭のすみひっそりといるふきのとう         筑美(通称:つう)
 夕食の衣かぶったふきのとう
 春の日のぽかぽか陽気を寝てすごす

    
           ○    
 
 直美選  ◎土筆出る怪訝な猫の顔の前       由美子
      ○春眠の顔に外出告げて行く       由美子
      ○花曇り猫の毛並みのぱさついて     由美子
      ◎拝啓と何度も書いている三月       琴美
      ○正座して文書く背中に春陽受く      琴美
      ○三毛猫の口元ゆるんで木の芽時      琴美 
      ○夕食の衣かぶったふきのとう       筑美  
 
 由美子選 ◎連翹の光の三尺けふ退職         直美
      ○無職なる漢が踏んで春の土        直美
      ◎拝啓と何度も書いている三月       琴美
      ○新生活走りまわって春の風        琴美
      ○三毛猫の口元ゆるんで木の芽時      琴美
      ◎夕食の衣かぶったふきのとう       筑美
      ○春の日のぽかぽか陽気を寝てすごす    筑美

 琴美選  ○糸桜半分咲いて最後の日         直美
      ○肩書を捨つれば揺れて土佐水木      直美
      ◎春眠の顔に外出告げて行く       由美子
      ○土筆出る怪訝な猫の顔の前       由美子
      ○早朝の曲がり角にはいぬふぐり     由美子
      ◎春の日のぽかぽか陽気を寝てすごす    筑美
      ○夕食の衣かぶったふきのとう       筑美  
   
 筑美選  ○肩書を捨つれば揺れて土佐水木      直美
      ◎春眠の顔に外出告げて行く       由美子
      ○揚げたての衣ふはりと蕗の薹      由美子
      ◎正座して文書く背中に春陽受く      琴美
      ○新生活走りまわって春の風        琴美 

   

※まずは、筑美の句についてです。

☆ねねは、「春の日の」の句を一番にとりました。凄くぐうたらな感じが出ていて良いなと思いました。二番目にとったのは「夕食の」の句で、つうが作った蕗の薹の句でどっちをとるかっていうとこっちかなってことで…。終わりです。(ねね)

☆ままいも「夕食の」をとりました。見たままを素直に詠んだところが良かったかなと思います。「蕗の薹が衣かぶっちゃったぁ」みたいな、ちょっとコミカルなところが、ままいは好きです。「春の日の」の句は「春の日」で、「ぽかぽか」で、「寝てすごす」だとあまりにもつき過ぎるので、言葉同士が印象を消し合っちゃって良くないのかなと思います。もうちょっと言葉を削ったほうがいいのかな。(ままい)

★おとうも「夕食の」をとりました。ちょっと今回はあとの二つは取れなかったな。「庭の隅」の句は、「庭の隅」っていうのと「ひっそり」っていうのがかぶっちゃってるからどっちかにしたほうがいいのかなって思います。「いる」って擬人化してるんだけど、これはしないほうが良かったかな。蕗の薹がどうだったとかそういう具体的な様子を表現したほうが俳句らしくなるね。「春の日の」の句はままいが言った通りで、ちょっともったいなかったかな。「夕食の」の句も、うーん、夕食じゃなくてなんか他の言葉が入ったほうが良いのかな。まぁ、三句の中ではこれが一番だけどね。(おとう)

★「皿の上」とかどう?(つう)

☆うーん…、「衣かぶった」っていうだけで天ぷらってわかるなら、囲まれたとかどう?(ねね)

★それだけだとわかんないかも。(おとう)

☆わかんないか。そしたらやっぱり「夕食の」いるんじゃない?(ねね)

★それこそ「てんぷらの衣かぶった蕗の薹」にしちゃえばいいんじゃない?(おとう)

★うーん…。(つう)

☆描いてあった絵(ぼのぼのという漫画のキャラクター)は上手かったんだけどね。今回の句はいまいちだったかな。絵のとこに二重丸つけときました(笑)(ねね)


※次は、琴美の句についてです。

★つうは、「正座して」の句を取りました。なんかおねい(ねね)が(合格祝いの)お礼の手紙を書いてたのは見てて知ってたけど、それを「背中に春陽受く」ってして俳句にしちゃったから凄いと思ってとりました。「新生活」の方の句は、せわしなく動いてる感じが出てていいなと思いました。(つう)

☆ねねの書いた俳句の下に、走り回ってる棒人間の絵を書いたのは誰??(ねね)

☆ままー。(ままい)

★(笑)はい。終わりです。(つう)

☆ままいは「拝啓と」の句をとりました。「三月」っていうのが、季節柄手紙を書いたりすることが多いだろうっていうことで、「何度も書いている」ってところと合ってると思ったのが一つと、「拝啓」っていう部分に、普段余り使わないんだけど、それを一生懸命使って手紙を書いてるっていう様子が感じられて、好感が持てるなと思ったので一番にとらせていたただきました。「三毛猫の」の句は、「口元ゆるんで」がそっかみたいな(笑)、良く観察してるところが気に入りました。「新生活」の句は「走りまわって」のとこで、もうなんか十分かなと…。「春の風」じゃなくて良いのかなっていう感じはしたんだけど、これは一緒に走り回ったので、走り回った記念にとりました。(ままい)

★おとうも「拝啓と」の句を一番にとりました。さっきままいも言ってたけど、「三月」っていう季語がきいてるのかな。「拝啓と」のところもかしこまった感じで、大切な手紙を書いてるのがわかっていいと思います。その次は「正座して」の句をとりました。これは、しっかりと情景が詠めてるので良いだろうっていうことで。「三毛猫の」の句も良く見て詠めていて良いのかな。でも、両方とも中八になっちゃってるんで、「正座して文書く背(せな)に春陽受く」と「三毛猫の口元ゆるむ木の芽時」って五七五にしたほうが良かったかなと思います。「新生活」の句は、やっぱり「新生活」で「走りまわる」のが当たり前すぎちゃうんで、「新生活の何かを買って」とかするといいにかな。(おとう)

☆確かにかぶっちゃってるよね。でも、この句は、走り回った記念に作ったやつで、そんなに気合入れて作った句じゃなかったんだ(焦)。(ねね)

★「新生活家具買いあさって」とかどう?(笑)(つう)

☆いいかも(笑)。(ままい)

★「腹出して」の句は川柳に近いのかな。「つくし出る」の句はもう論外。(おとう)

☆その辺は山の賑わいの句ですから(笑)。(ねね)
         

※次は由美子の句についてです。

★「春眠の」はたぶんつうのことで、つうは寝てるからそれは良くわからないけど、でも情景はすごくわかりやすかったのでこれを一番にとりました。もう一つは「揚げたての」の句で、つうが作ったのと同じようなことを題材にしてるんだけど、つうのより良いなと思ってとりました。(つう)

☆ねねも「春眠の」を一番にとりました。ねねは寝顔をどうのこうのっていう俳句が好きっていうのもあるし、この俳句が「働く働くスーパーままい」(出句用紙の名前のところに、今回ままいがつけたキャッチコピー)っていうのと凄く合ってるなと思って(笑)。ほのぼのとした雰囲気もでてるし、良い句だなと思いました。「土筆出る」の句は。(ねね)

★「つくし」って読むのかこれ!!(つう) 

☆★え〜〜〜〜っ!! 今頃!?(おとう、ままい、ねね)

★「どひつ」だと思ってた。(つう)

☆えっと、「土筆出る」の句は、土筆を見てるときの猫って寄り目みたいになってて、それを「怪訝な顔」って詠んだのが面白いなと思いました。もう一個は「早朝の」の句で、なんか、「早朝の曲がり角」っていう部分に、曲がったらいぬふぐりで「まぁ!!」みたいな、いぬふぐりと出合った驚きみたいなものが感じられて、「驚いた」って言葉が入ってないのに、驚きが伝わってくるので凄いなと思ってとりました。他の句も嫌いじゃなかったんだけど、数が多すぎて、どれをとったらいいのやらだったのでこれで終わりにしました。(ねね)

☆ありがとうございます。(ままい)

★おねいは、なかなか読み取るねぇ。(つう)

★短時間でいっぱい作ったなって感じで、ちょっと中途半端な句が多かったなっていう印象なんだけど、一番好きだったのは「土筆出る」の句で、なんか俳諧味もあって、温か味もあって、良いんじゃないかなと思いました。「土筆」って季語もいきてるのかな。(おとう)

★いきている季語が読めなかったあちし…(笑)。(つう)

★「春眠の」の句はさっきつうが言ったけど、情景が良くわかるし、ほのぼの系で良いかなと思いました。「花曇り」の句もなんとなく気に入りました。猫の毛がぱさついてるっていうところがね、良いかなって思います。「毛並み」まで言う必要がなかったかなって気もするな。「腹の毛」とかそういうほうが良かったかな。「早朝の」の句は、「には」の部分が引っかかるな。「曲がり角にいぬふぐり」とか、「には」って言わないほうが良いな。「意外にも」の句は、「意外にも」が説明になっちゃうね。(おとう)

★この「出揃いぬ」っていうのは、出揃ってるの、出揃ってないの?(つう)

★「出揃ってる」の。(おとう)

☆完了の助動詞(笑)。(ままい)

★うーん、古文か…。(つう)

★「あんず散る」の句は、「過ぎてをり」まで言わないで、「過ぎ」でやめちゃえば俳句らしくなると思うんだけど、「過ぎてをり」まで言っちゃうと、説明になっちゃうかな。「花三分」の句は「言ったり来たり」があって「午前午後」があるとうるさすぎるね。どっちかとっちゃわないと駄目かなって気がします。(おとう)

★「言ったり来たり」「午前午後」、対句か!!(つう)

★いや、そうじゃないけど(笑)。「ほろにがの」の句は悪くはないんだろうけど、「ほろにが」って言わなくてもいいんじゃないかって思います。菜の花ってほろ苦いもんだから、言っちゃうとこれも説明になっちゃうかな。(おとう)

★難しいんだね。(つう)

★それこそ、量とか長さとか、そういうことを言ってあげたほうが良いんじゃないかな。「揚げたての」の句は当たり前なのかなって気がします。「黄水仙」の句は、「不安」っていうのがあんまり効いてないのかなってところです。(おとう)

☆枯れちゃうんじゃないかってこと? 咲きすぎちゃって。(ねね)

★そういうんじゃなくて、作者の内面的なことも含んでなんだろうけど…。まぁ、こんなもんで終わりにします。(おとう)


※最後に、直美の句についてです。

★つうは凄く厳しくとりました。「なあらんだ」の句は、(つう)

☆何でおとうの句は皆全部を批評するんだろうね(笑)。(ねね)

★「なあらんだチューリップの芽」ってとこが気に食わなかったので取りませんでした。(つう)

☆わかる、それ、凄く良くわかる。(ねね)

★「連翹の光」の句は…、これ「みまた」?(つう)

☆「さんじゃく」だよ! 「みまた」って何?(笑)。(ねね)

★この句は、難しい言葉を使いすぎて良くわかんなくてとらなかったんだけど、雰囲気は好きだから、意味がわかってたら一番にとったかも(笑)。(つう)

☆なんじゃそりゃ(笑)。(ねね)
        
★「糸桜」の句は「最後の日」っていう言葉が好きじゃなかった。教師としての最後の日って意味なんだろうけど、なんか嫌だったのでとりませんでした。「肩書を」の句は「肩書」のところが好きじゃなかったんだけど、でもやっぱりこれかなってことで、とりました。「無職なる」の句は、無職なのに、「男」っていう字を「漢」って書いてるところが、なんかかっこ悪くてとりませんでした。(つう)

☆なるほどね(笑)。(まま)

☆ねねはまず自分のとった俳句から。「糸桜」の句は、おとうの俳句の中で一番違和感がなかったからとりました。いわれて見れば確かに「最後の日」ってなんなんだって感じだけど、まぁ退職シリーズの中にあるから、そこはわかるかなってことで。「なあらんだ」の句は、やっぱり「なあらんだ」が気に入らないな。「なあらんだチューリップの芽」のとこまでは別にいいんだけど、そこに「退職す」がくっついちゃうと、なんかおかしくなっちゃった人みたいなイメージになっちゃって、ちょっとやりすぎたかなと思いました。「連翹の」の句は嫌いじゃないけど、ねねも意味がいまいちわかんなかったっていうのと、「光」って書いて「かげ」って読ませるやり方をおとうは良く使うなと思って、新鮮味にかけたのでとりませんでした。「肩書を」の句は嫌いじゃないからとったって感じです。ねねは、「退職」って言葉が入っている句がちょっととれなかったので、入ってないから「肩書を」の句をとったっていうのもあるかな。「無職なる」の句はつうと同じで、「無職なる漢」のところがかっこ悪い。「踏んで春の土」のところは好きだったんだけどな。(ねね)

★やっぱり変だよね。ニートなのに自分を「漢」なんて言っているのは。おとうが教師だったってのがわかれば、ちょっとは良いのかもしれないけど…。(つう)

☆いや、それでもやっぱり変だと思うよ(笑)。ねねとしては、「肩書を捨つれば踏んで春の土」って感じで、肩書を捨てるほうをこっちの句につけてほしかったな。という訳で、終わり。(ねね)

☆「連翹の」の句は、連翹は光を帯びてるイメージがあるし、「三尺」っていうのは、まぁ特に感想はないんだけど、リズム的にはあってると思います。今日まさに退職したわけだから、記念の一句ということで良いかなと思うし、この句は自分を客観視ってとこまでいかないかもしれないけど、近いとこまでいってるかなってことでとらせていただきました。批判が集まる「無職なる」の句は、やっぱり、大の男が定年退職でもないのに無職になるっていうのは、自ら選んだことではあるけど、やっぱり句だけへの批判じゃなくて、行動そのものへの批判も多少は集まるものだと思うので、その辺りの、新たな一歩を踏み出したっていうのとも違う、春の土をふかっと踏んだよみたいな、やや不安気なところが、ままい的には面白かったのでとりました。あえて、大の男が無職になるのを宣言するような意味合いもあって、なかなか深い句かなと思いました。「糸桜」の句は、「最後の日」っていうのがちょっときついかなと思って、とれませんでした。「肩書を」の句はいいと思ったんですが、どっちかっていうと先に言った二つの句のほうが良いかなってことでとりませんでした。「なあらんだ」の句は、確かに「退職」と「なあらんだなあらんだ」の感じはマッチしてないのかなと思いました。(ままい)

★おとうはその句、結構気に入ってんだけどな…。(おとう)




※以上、やっと大学生になることができ、一人暮らしを始めたばかりの「ねね」が、今回もテープ起こしを担当しました。午後8時より句作を開始、11時を過ぎた頃には終了しました。それでは、またご報告させて頂きます。

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