《38》 | 2014/06/17 |
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朝鳥や菫 |
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昭和28年作。 波郷らしい句とは言い難い。 〈私は今までかういふ句を作つたことがなかつた。それだけのことを、それだけに鮮明に描き得てゐると思ふ〉は、自句自解にある解説だが、波郷の呼びかけで始まった「馬酔木」の第一回鍛錬会として、谷川岳に行ったときの句である。 自句自解は、〈谷川温泉の五月は桜、桃、杏の花盛、谷川ぞひにゆく傾斜の道の木々はまだ芽が固く、朝は霜が降りる快晴であつた。…中略…一羽の小鳥が林から跳んできて切株にとまつた。切株を繞つて作すみれの中で、それは印象的に美しかつた〉とあって、先ほどの文章が続くのである。 たしか「写生というものを信じない」と言った波郷だが、緊迫した病魔との闘いを経て、また「馬酔木」の連衆と再び交流することが出来るようになり、境涯というものを一切まとわない、写実に徹した句が新鮮に感じられたのだろう。 写実の句であることに、波郷の心境というものがかえってはっきりと出ている気がして、やはり立ち止まらざるを得ないのである。 |
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(c)kyouko ishida |
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石田郷子 (いしだ・きょうこ) 1958年、東京生まれ。山田みづえ主宰「木語」を経て、現在「椋」代表・発行人。句集に『秋の顔』『木の名前』、著書に『名句即訳 蕪村』『名句即訳 芭蕉』など。 俳人協会会員、日本文藝家協会会員 HOME |
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