火の歳時記
片山由美子

 
   【火の路】 第5回 NO5 平成20年2月12日
 ところで、ゾロアスター教の特徴の一つに鳥葬がある。イランへ行く前から鳥葬という言葉は知っていたが、それがどのようなものであるかについての知識は持ち合わせていなかった。そしてヤズドで、鳥葬がどう行われていたかを知ったのである。
 ゾロアスター教で鳥葬を行う理由は、火葬することで神聖な火を穢さないためである。土葬や水葬も土や水を穢すと考えられた。その結果残るのは鳥葬ということになったのである。もちろんそれは、乾燥した地域なので放置した死体が腐敗しにくいなど、地理的な条件が適していたこともある。ゾロアスター教のほかに、チベット仏教でも鳥葬が行われていた。
   イランでは鳥葬自体は衛生上の問題などから既に禁止されているが、それが行われた場所は「沈黙の塔」(ダフメまたはダクマ)として残っている。塔といってもいわゆる尖塔ではなく、写真でわかるように人工的に作られたまるい丘のようなものである。かなり急勾配の坂になっており、最後の階段を昇ると、上は広く平らになっている。  
そこまで死者を運ぶのである。現地人ガイドのアミールは日本語の上手な青年で、「ここに死体を置きま〜す」と言ってみずから手足を縮め横向きに寝てみせた。生者が立ち去ると、待ち構えていたハゲタカやハゲワシが舞い降りてきてまず、目からつつくそうである。それが右目からか左目からかによって、生前善人であったか悪人だったかが判断されるとか。どこかに潜んで見ていたらしい。鳥が肉を食べつくすのにはそれなりの時間がかかる。その間、遺族は麓にある施設で寝泊りをして待たなければならない。鳥葬が行われなくなって半世紀にもなるのに、その場所はいまも残っている。
 鳥葬は、一般にsky burial と訳されるように風葬と一体とも考えられている。鳥が肉を食べ終わって骨だけになるとそれは日光消毒され、やがて風化していくというわけである。イランの場合古くはわからないが、禁止される以前には最後は硫酸をかけて溶かしてしまい、何も残さないという処理の仕方をしていたらしい。同じく鳥葬を行ってきたチベットでは死体をそのまま置くのではなく、死体処理人がいて砕いた骨とともに肉を団子状にして鳥に食べさせ、何も残らないようにしていたという。いずれにしても、何も残さないことが重要なのである。
   
 
 (c)yumiko katayama
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