火の歳時記
片山由美子

 
   【火の伝説】 第1回 NO13 平成20年4月8日
 人間を人間たらしめている根源的な要素のひとつは、火を使うことだろう。道具に関しては、チンパンジーはもちろん、簡単なものならばほかの動物や鳥も食べ物を得るために使うことが報告されている。しかし、火を作り出し、利用するのは人間だけである。
 火は地球誕生とともにあったわけで、人類が進化する過程でつねに目にするものだった。火山の噴火や山火事など、自然界の現象として火は発生していた。長い間、それは恐怖の対象だったに違いないが、五十万年ほど前に、人類の祖先は火が役に立つものであることを知った。おそらくはじめは、自然の火の一部を得て、それを囲んで暖をとったのだろう。そしてつぎには、食べ物に火を通すということを発見した。生で食べていた肉を焼いたとき、人間は野生動物とは違う存在になったのである。人間が定住したきっかけは、火を手に入れたことだといわれる。そして二万年前には、火を作り出すことを覚えたのである。それは、人類史上もっとも偉大な技術の発見といってよいのではないだろうか。
 しかし、どのようにして火を生む方法を知ったのだろうか。おそらく偶然だったに違いないが、その方法は密かにしか伝えられなかったと思われる。その結果、人に火を伝えたものをあれこれ想像することになる。面白いのは、動物が伝えたという伝説が世界の各地に残っていることである。
 たとえばアマゾンでは、ワニとジャガーが火を伝えたというこになっている。なぜなら、どちらも闇の中で目が光るからである。それが闇を照らす火を伝える力をもつ証とされ、火を司る神として祀られたのである。またメキシコの神話では、初めに火をもっていたのはイグアナだという。北アメリカでは、熊だったり鹿だったりウサギだったりする。カリフォルニアには興味深い話が伝わっている。ある部族の民話では世界を作ったのは山犬と鷲だというのである。山犬は西のほうの土地で火を盗んで耳の穴に入れて持ち帰り、山中でそれを燃やした。そして集まってきた人々に分け与えたというのだが、これは誰かが火山などから火をもたらしたことを言っているのだろう。オーストラリアでは鳥がかかわっている。はじめはカラスが火をもっていたが誰にも使わせないので、ミソサザイが盗んできた。それを鷹が横取りしてあちこちにばらまいたという。ミソサザイが登場するのは、尾が赤いことからの連想らしい。ミソサザイは遠く離れたフランスのノルマンディーの神話でも火を運んだことになっている。こうした神話や伝説に共通しているのは、天から、あるいは遠くから火をもたらしたという発想である。それを、自由に空を飛ぶ鳥の役目と考えたのはいたって自然であり、共通性があって当然である。
  火を焚いて春の寒さを惜しみけり    岸本尚毅
   
 
 (c)yumiko katayama
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