火の歳時記
片山由美子

 
   【火の伝説】 第2回 NO14 平成20415
 人間はどのようにして火を得たのか。ニューギニアのある島では、初め、男だけが火を作る方法を知っていたという。特別な木と木をこすり合わせて火を作るのは男の集団の秘儀だったが、あるときそれが女の集団へ洩れてしまう。秘密の方法を教えたのは犬だといい、その頃は犬も話ができたのだが、怒った男たちから、お喋りの罰として言葉を奪われてしまったという。
 アフリカの多くの部族では伝説もそれぞれだが、やはり最初は男だけが火を作っていたという話がある。それを女が盗むのだが、女自身の魅力で男を騙して聞き出すなど、バリエーションはさまざまである。
 二つの例を挙げただけだが、多くの地域で共通しているのは、昔は男女が別のグループを作って生活する風習があったことである。いまでも、そういう生活を守っている少数民族がいる。火を作るという原初の営みは、民族学的にも大きな意味をもつに違いない。
 ところで、火は動物や人間ではなく、神がもたらしたという伝説もある。天からの火とは、多くは落雷だったようで、雷そのものを神として崇める民族もいれば、天上に火を司る神がいるという伝説をもつ民族も多い。後者では、火は神のものなので、人間には与えないはずだったが、誰かがそれを盗み出したという話になる。これは「ギリシア神話」のプロメテウスのパターンだが、同様の話がインドやミクロネシアにも伝わっている。インドではマータリシュヴァンという神様が神々の国から火を盗み出して人間に与えたことになっている。ミクロネシアではヤラファトという天の神が人間に火を与えてくれる逸話がある。インドやミクロネシアの神は、人間に火を教えたことを咎められたりはしなかった。それに対して、「ギリシア神話」ではプロメテウスはさんざんな目に遭うのである。その話はあとに回すことにして、「ギリシア神話の」火の神を紹介しておきたい。
 ゼウスより一代前、つまりゼウスの父クロノス(神々の世界の二代目の王)の兄弟にブロンテス(雷鳴)、ステロペス(稲妻)、アルゲス(閃光)がいる。彼らはキュクロプスと呼ばれ、額にまるい目を一つだけもっていた。そして火を使って鍛冶を行った。これが興味深いのは、日本神話の「天目一箇神(あめのまひとつのかみ)」とあまりにもよく似ていることだ。この日本の神も、鍛冶の神であり、神々のために刀や斧を造ったというのだが、ゼウスに雷電を与え、ハデスには姿を隠す兜を、ポセイドンには三叉の矛を武器として与えたキュクロプスたちと、全く同じことをしているのである。

  十方へ明るき火花鍛冶始     本間一萍
   


 
 (c)yumiko katayama
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