火の歳時記
NO15 平成20422


片山由美子

 
   【火の伝説】 第3回
 さて、「ギリシア神話」では全能の神としてゼウスが登場するが、最初からゼウスがすべてを支配していた訳ではない。ゼウスはじつは神々の新世代に属し、それ以前には旧世代の神さまたちがいた。そして両者が覇権争いをしたのである。結果的には新世代が勝利を収め、新旧交代が行われるのであるが、その間に立った神がプロメテウスである。彼は旧世代に属していたにもかかわらず、新世代の台頭を見越して加担した。その結果、敗れた旧世代の神たちは大地の奥底に投げ込まれてしまったにもかかわらず、プロメテウスだけは天上の神の国と地上の人間の世界を自由に行き来することを許されたのである。
 ある時、神々と人間が犠牲【いけにえ】の雄牛を分け合うことになった。するとプロメテウスが進み出て、二つに分けて並べた。一方は脂肪に富んだ肉と内臓を雄牛の胃袋でくるんで皮の上に置き、もう一方には白い骨をつややかな脂身でくるんで置いた。それをゼウスに選ばせると、ゼウスは見かけに騙されて、実際は食べるところがない後者を選ぶ。このときから、肉と内臓は人間が食べ、神には骨と脂肪を焼いた匂いを捧げることが習慣になったという。
 ゼウスはまんまとプロメテウスの策略にかかったかに見えたが、じつは騙されたふりをしながら、仕返しを用意していた。つまり、肉と臓物を手にした人間がそれを食べられないように、料理するための火を隠してしまうのである。だが、プロメテウスも負けてはいず、ゼウスが隠した火を盗み出すことに成功した。オオウイキョウの茎に忍ばせて人間に与えたのである。これは当然、人間のためを思ってしたことなのだが、それによって人間にもプロメテウス自身にも大変な災いを招くことになる。
 地上に火がチラチラと見えると、ゼウスはまたも騙されたことに怒り、仕返しを考えた。まずは鍛冶の神ヘパイトスに命じて美しい乙女を作らせる。そして、アテナには織物の技を教えるように命じ、アプロディテには、乙女の頭上に魅力と胸焦がすあこがれと、四肢を萎えさすもの思いを注ぎかけさせ、ヘルメスには、犬の心と盗人の本性を植え付けるように命じた。
 乙女はパンドラと名付けられ、プロメテウスの弟エピメテウスのところへ送り届けられる。あさはかなエピメテウスは、プロメテウスからゼウスの贈り物は決して受け取ってはならないと命じられていたにもかかわらず、パンドラの美しさに目が眩み妻にしてしまう。これから、人間の苦しみが始まるのである。

  生贄の血の混りたる泉かな  照井 翠
   


 
 (c)yumiko katayama
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