火の歳時記

NO16 平成20429


片山由美子

 
   【火の伝説】 第4回
 パンドラは、プロメテウスに二度も煮え湯を飲まされたゼウスが憎しみをこめて創り上げたものだった。見かけはうまそうなのに中身は骨だけだった生贄にならい、パンドラは外面は美しいにもかかわらず、内面は邪悪なものとして生み出されたのである。
 地上に災いを撒き散らしたことで知られるパンドラの箱の話だが、一説には箱ではなく甕ともいう。いずれにせよ、パンドラは夫となったエピメテウスから絶対に開けてはならないといわれたものの蓋を開けてしまったのである。すると病や労苦など、それまで人間の世界に存在していなかったすべての災いがあっという間に広がったのであった。だが、パンドラが慌てて蓋を閉ざしたことによって、希望(エルピス)だけはかろうじて残ったということになっている。
 さて、人間に火を与えたプロメテウスも災いを蒙ったといったが、こちらがまた大変なのである。怒ったゼウスは、世界の果であったコーカサスの岩山にプロメテウスを鎖と枷で縛りつけさせ、毎日、大鷲が肝臓を食い荒らすようにした。しかし、昼間食われた肝臓が夜の間に回復したため、毎日大鷲がやってきては肝臓を食らい続け、プロメテウスの苦しみには終わりがなかった。
 このプロメテウスを救ったのは、英雄ヘラクレスである。旅の途中のヘラクレスが、かの大鷲を射落としたのであった。ヘラクレスもまた、ゼウスの妻ヘラから数々の迫害を受けたのであるが、このヘラクレスによって、ようやくプロメテウスは苦しみから逃れることができたのである。
 さて、神々のもとからプロメテウスによって盗み出された火であるが、これも人間にとってただただ有難いというだけのものではなかった。生肉を焼いて食べるのには欠かせなかったが、火はあらゆるものを焼き尽す生き物でもあった。パンドラが送り込まれる前はこの世に男しかいなかったのだが、パンドラは女を産み落とす。これによって、家の蓄えを貪り尽す人種が生まれ、火と同じように世界を滅ぼす危険をもったものが存在するようになったのだという。

  六月の竈火の奥見つめをり    飯島晴子
   


 
 (c)yumiko katayama
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