火の歳時記

NO20 平成20527日


片山由美子

 
   【火の伝説】 第8回
 「ギリシア神話」の話をもうひとつ。英雄ヘラクレスは、若くしてテーバイ王の娘メガラを妻とし三人の子を得たが、ゼウスの妻ヘラ──彼女が原因でしばしばことは起きるのだが──の狂気に取り付かれ、何とわが子を火に投げ込んでしまったのである。残酷なことをしたが、罪はのちにようやく浄められ、そのあとデルフォイの神託を受けに行くと、アルゴス一帯を支配するエウリュステウスに仕え、命に従わなければならないと告げられる。そのエウリュステウスによって有名な十二の難行を課せられ、これを為し遂げるのに何と二十二年もかかったのである。
 その難行とは①ネメアの不死身の獅子の皮を取ってくること、②レルネ沼の九つの首をもつ水蛇(ヒュドラ)を殺すこと、③アルテミスの聖なる鹿を生け捕りにすること、④エリュマントス山の猪を捕獲すること、⑤家畜三千頭を飼いながら三十年間掃除したことのないエリス王アウゲイアスの家畜小屋を一日できれいにすること、⑥アルカディアのステュムパロス湖畔の鳥の群を退治すること、⑦クレタ島の狂った牛を生け捕りにすること、⑧トラキアのディオメデス王の人食い馬を捕えること、⑨アマゾン族の女王ヒッポリュテの帯を奪うこと、⑩世界の西の果てからゲリュネウスの牛を連れてくること、⑪日没の国ヘスペリデス(夕べの娘たち)の守る黄金の林檎を手に入れること、⑫冥界の番犬ケルペロスを地上につれてくること、というものだった。
 どれも不可能としか思えないような試練なのだが、ヘラクレスは知恵と力をふりしぼってすべてを果たし終える。ところが、それでおよそ報われたとはいえないのである。まず、①の獅子の皮を得たヘラクレスがそれを身につけて帰還すると、エウリュステウスは腰を抜かして甕の中に身を隠してしまう。⑦の牛を捕獲してくるとエウリュステウスはそれをヘラに捧げたが、喜んでもらえない。⑨の帯はエウリュステウスの娘が気まぐれに欲しいといっただけで、罪も無いヒッポリュテを殺してしまった。⑪の林檎に至っては、ヘスペリデスの園以外にあってはならない物だったため、アテナが元の場所へ戻してしまう。⑫のケルペロスは、ヘラクレス自身が冥界へ返しに行かなくてはならなくなる。
 ところで、最初に冥界へ下りたときに、ヘラクレスは前回紹介したメレアグロスの亡霊に出会う。そこで、地上へもどった折には彼の妹デイアネイラと結婚することを約束したのである。それに従って十二の難行を果たしたヘラクレスはカリュドンへ行き、ディアネイラを妻とする。そして、彼女を故郷へ連れ帰る途中ある川へさしかかるのだが、そこで起きた話はまた次回。

  毛虫焼くじりじり炎ともならず   廣瀬直人
   


 
 (c)yumiko katayama
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