火の歳時記

NO22 平成20610


片山由美子

 
   【火の伝説】 第10回
 さて、日本の神話でも火は重要な役割を果たしている。イザナキ、イザナミの話と「ギリシア神話」のオルフェウス伝説が酷似しているということはすでに紹介した。亡くなったイザナミを探しに、イザナキが黄泉の国へ赴くという話だが、そもそもなぜイザナミが死んでしまったかといえば、二人の間には多くの神が生まれ、最後に産んだのが火の神だった。その出産によって、イザナミはホト(女陰)を焼かれて死んだのである。
 この話だけではない。富士山の祭神で、全国の浅間神社に祭られているコノハナサクヤビメ(木花佐久夜毘売、または木花之開耶姫)の出産にも火がからんでいる。記紀の重要なことがらのひとつに天孫降臨がある。高天原から豊葦原中国へ天照大神の孫にあたるニニギノミコト(瓊瓊杵尊)が降臨したという話である。このニニギノミコトは、降臨すると一人の美しい少女に出会った。一目で気に入ってしまったニニギノミコトが少女の素性を尋ねると、オオヤマツミ(大山津見神)の娘で名はコノハナサクヤビメだという。妻になって欲しいと頼むと、ヒメは父に相談してからでなければ返事はできないというので、ニニギノミコトはオオヤマツミに早速結婚の申し入れをした。するとオオヤマツミは、コノハナサクヤビメにはイワナガヒメ(石長比売)という姉がいるので、この姉も一緒に娶ってもらいたいと頼んだ。じつは、コノハナサクヤビメは絶世の美女であるにもかかわらず、姉は頗る醜かったのである。イワナガヒメを見たニニギノミコトは仰天して、オオヤマツミの申し出を断ってしまった。
 オオヤマツミはニニギノミコトが二人を妻にしてくれれば、容貌は醜いが体の頑丈なイワナガヒメからは丈夫で永遠の寿命をもった天孫が生まれ、コノハナサクヤビメからは美しい花が咲きほこるような繁栄をもたらす天孫が生まれるであろうと考えたのであった。コノハナサクヤビメだけを妻にしたニニギノミコトは、繁栄は手にしたが、永遠の寿命は得ることができなくなるのである。
 ニニギノミコトの妻となったコノハナサクヤビメは、一夜の契りで子を身ごもる。そう告げたが、ニニギノミコトは信じることができず、すでに国神と契って身ごもっていたにちがいないと言い放った。それに憤ったコノハナサクヤビメは身の潔白を晴らすべく、それなら産屋に火を放ってその中で出産して見せようといった。国神の子であったなら火の中で生まれるはずはなく、ニニギノミコトの子であれば無事に誕生するであろうと告げたのである。(続く)


  金粉をこぼして火蛾やすさまじき      松本たかし
   


 
 (c)yumiko katayama
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