火の歳時記

NO25 平成2071


片山由美子

 
   【火の伝説】 第13回
 「ギリシア神話」の竈の神ヘスティアの話は既にした。この竈神というのはどの国にもいる。中国の「竈神(ツァオシェン)」の話は、アジアに共通の伝説の元となったようだ。
 むかし、張単(チョウゼン)と丁香(チョウカ)という夫婦が住んでいた。働き者の妻・丁香のお蔭で家はどんどん豊かになっていった。すると、こともあろうに張単は遊女に夢中になり、妻を追い出して遊女を家に入れてしまったのである。追い出された丁香は、(これが日本の話ではありそうもないのだが)別の男と結婚し一生懸命働いたので、さらに裕福になった。張単のほうはどうしたかというと、放蕩の果に財産を失って遊女にも逃げられ、物乞の身となっていた。そしてあるとき、立派な家の戸を敲いた。するとその家の夫人が現れ、彼を中に招き入れた。夫人は丁香で、張単と知って食べ物を与えてくれたのだった。最初はまったく気づかなかった張単も、夫人がかつての妻であることを知ると、我が身を恥じて竈に飛び込み焼け死んでしまった。そして竈の神となったというのである。丁香は再び、竈神となった張単の妻となり、ふたり一緒に祀られることになった。
 このふたりの竈神は家を守ることを役目とし、その家の主婦がちゃんと役割を果たしているかどうかを年に一度天上界に報告しなければならなかった。その報告は旧暦十二月二十三日にするのだそうで、この日になると「送竈」という祭を行って、良い報告をしてくれるように竈神をもてなすのだという。また、悪口をいえないように、竈神の像に飴を塗りつけるとのこと。飴で引っ付いて口が開かないようにするのだというところが、なにやら中国らしい話である。
 日本にも似た話はあるが、元の妻が再び一緒になって神として祀られるということにはなっていない。ベトナムでは、新しい夫も加えて三人とも神様にしてしまっているというのだから、神話も国柄を反映している。
 日本では竈神を荒神(こうじん)ともいう。中国地方以西で荒神を祀ることが多いとのことで、本来は荒ぶる神をなだめて祟りを逃れるのだそうだ。関東でも「荒神さま」を火と水の神として台所に祀っている。白い幣を竹串に挿したものを三本捧げるが、地方によっては赤青黄の三色の幣のところもあるという。東北では、火の神は異形の男で、醜い顔の面を竈の柱に吊り下げておく。「ひょっとこ」といえば、おどけた顔でお馴染みだが、この語源は「火男(ひおとこ)」で、これも竈神なのであった。

  輪飾りや竈の上の昼淋し        河東碧梧桐
   


 
 (c)yumiko katayama
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