火の歳時記

NO29 平成20729


片山由美子

 
   【火の歳時記】 第3回 「すもも祭」


 7月20日に府中市の「すもも祭」吟行をした。大國魂神社で毎年、曜日にかかわらずこの日一日だけ催される祭である。一般の歳時記には載っていないが、東京では伝統のある行事のひとつといえる。
 
 なぜ〈すもも〉かというと、話は前九年の役にまで遡り、源頼義・義家父子が奥州の安倍氏征伐に赴く際、大國魂神社に戦勝祈願をしたことに始まる。御蔭で戦に勝つことができた父子が御礼参りに立ち寄り、それがきっかけで祭が行われるようになった。そのときに神饌のひとつとして李(すもも)を供えたことから、境内には毎年すもも市が立つようになった。それが、以後千年近くにもなる現在まで続いているのである。
 この祭でもうひとつ大事なのは、烏団扇(烏扇子も)が授けられることである。じつはこの団扇、「虫追い」の目的をもっていて、これで扇ぐと農作物の害虫が駆除され五穀豊穣がもたらされるという。玄関に差しておくと病人は直ちに平癒し、悪疫防除にもなるという縁起物である。
 烏団扇の話は1200年前の「古語拾遺」という神話に出てくる。昔、大地主神が田植えのあと早乙女や田夫を労おうと牛肉をご馳走した。これを見た御歳神の御子が、そのことを父神に告げると、非常に立腹して田に蝗を放ち、稲を食い荒らさせてしまった。驚いた大地主神がト者に占ってもらったところ、御歳神の崇りなので、白猪、白馬、白鶏を献じて詫びるようにとのことだった。その通りにすると怒りが解けただけでなく、蝗を駆除する方法も授けてくれた。そのひとつに「烏扇をもって扇げ」というのがあったのだ。
 前々回紹介した虫追いとちょうど同じ時期のことである。越谷の虫追い祭は、毎年7月24日に行われる。
   
 
   

 
 (c)yumiko katayama
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