火の歳時記

NO30 平成2085


片山由美子

 
  【火の話】 第1回  「オヒアレフア」

 猛暑の街を歩いていると、炎のような花が目につく。夾竹桃、百日紅、そして凌霄花に到っては空に向かって燃え上がらんばかりだ。足もとにもサルビアが真っ赤な火のような花をつけている。いずれも南方系の花であろう。北国では燃えるような花を見た記憶などない。熱帯にはなぜ原色の派手な花が多いのか、これも自然科学ではちゃんと解明されているに違いない。
 ハワイの花といえばハイビスカスを思い浮かべる人が多いかもしれないが、ハワイ島を代表する花といわれるのがオヒアレウアである。火山の女神ペレの化身ともいわれる情熱的な花だ。
 ペレはキラウエア火山の女神だが、じつはもともとハワイにいたのではなく、カヒキといわれる島(タヒチのことではないかと推測されている)から移ってきたという。ペレは火山の神といわれるだけあって、たいそう気性が激しく気まぐれである。美女に化けて族長たちに近づき、彼らを虜にするものの、その性格ゆえに疎まれてしまう。すると怒り狂ってキラウエア山を噴火させ、村もろとも溶岩で焼き尽くすという荒々しさであった。
 こんな話もある。あるときオヒアという男に恋をするが、オヒアにはレフアという恋人がいた。その美しい娘に嫉妬したペレは、オヒアに山へ登って珍しい花を探してきてくれるように頼んだ。オヒアはいわれた花を求めて歩き回ったが見つからず、とうとう山で死んでしまった。哀れに思ったペレはオヒアを木に変えた。一方、レフアはいつまで待ってもオヒアが戻ってこないので山中へ探しに出かけた。もちろん、オヒアがいるはずもなく、泣き続けているうちに息絶えてしまった。それはちょうどオヒアの木の下であった。ペレは自分のしたことを後悔し、二人が永久に離ればなれにならないよう、レフアを花に変えて、オヒアの木に咲かせてやった。その木がオヒアレフアと呼ばれる所以である。
   この花はハワイアンキルトのデザインにも使われるなど、広く親しまれている。4月のメリーモナークというフェスティヴァルのときにはオヒアレフアをレイやハク(髪飾り)にする。ところが、この花を摘むと必ず雨が降るという。それを現地の人々はふたりの涙雨だと言っているのである。
 オヒアレフアをめぐる伝説はさまざまに伝わり、ハワイの人々に愛される花となっている。 
 
   

 
 (c)yumiko katayama
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