火の歳時記

NO34 平成2092


片山由美子

 
  【火の話】 第2回  「かちかち山」(1)

 「かちかち山」のストーリーをちゃんと話せるだろうか。昔話というのは知っているようでいて、正確には覚えていないものが多い。また、伝説に基づいているものなどは細部が違うものが各地に伝わっている場合もある。ひところ『本当は怖いグリム童話』という本が出て、なぜか若い女性の間でブームになったというが、「かちかち山」もけっこう怖い、というより残酷な話である。そこで、幼児向きの絵本では刺激を少なくしたものもある。昔話として語るより、場面を絵に描く絵本はリアルなのでそうした配慮がなされるのも無理はない。
 さて、ストーリーであるが、始まりはどれも「昔、あるところにじいさまとばあさまが住んでいた」という、昔話に共通の設定である。そして、じいさまが山の畑で豆を蒔く場面となる。「一粒の豆千粒になあれ、ふた粒は万粒になあれ」などといいながら豆を蒔くのである。そこへ狸が邪魔しにやってきて、「じいの豆片割れになれ」とか「一粒は一粒、晩になったらもとなしよ」などと囃したり、種をほじくり出して食べてしまったりする。毎日やってきては悪さをするので怒ったじいさまは、切株に鳥黐を塗っておき、そこへ座った狸を捕まえる。なかには気の短いじいさまがいて、鍬を投げつけて命中させ、捕まえたということになっている本があるのも面白い。
 ともあれ、狸を縛って家に帰ってきたじいさまは、狸汁を作ろうと、ばあさまに粟餅を搗いておくように言って用足しに出かけた。すると狸は、手伝ってやるから自由にして欲しいと言い、気の良いばあさまを騙して縄をほどかせると、何とばあさまを杵で打ち殺してしまった。そして、狸汁を作るはずだった鍋にばあさまをぶち込んでぐつぐつ煮込んでしまうのである。このあたりはかなり衝撃的なので、単に叩き殺したというだけにとどめている本もある。しかし、残酷極まりない話を進めている本では、狸はばあさまに化けて、帰ってきたじいさまに狸汁ならぬばあさま汁を食べさせるのである。食べ終わってすべてを知って嘆き悲しむじいさまを残して、狸は山へ逃げて行った。
 そこへ兎がやってきて事情を知ると、じいさまの代わりに狸に仕返しをしてやることにした。まずは長者の家の屋根替えだといって萱山で萱を刈っていると狸がやってきて、分け前欲しさに自分も手伝いたいという。狸に萱を背負わせた兎は、火打石を打って火を放つ。すると「カチカチいうのは何の音?」と狸が訊ねるので、「かちかち山のかっちん鳥が鳴いているのさ」と答える。やがてぼうぼうと萱が燃え出したので「ぼうぼういうのは何の音?」と聞いた。今度は「ぼうぼう山のぼうぼう鳥が鳴いているのさ」と答えて逃げてしまった。ようやく背中が燃えていることに狸は気づき、大火傷をしてしまったのであった。
 これが前半の話であるが、幼児に見せる絵本に仕上げるのはなかなかむずかしいだろうと思う。狸の背中がぼうぼうと燃えている姿はなかなかインパクトがある。
 
   

 
 (c)yumiko katayama
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