火の歳時記

NO35 平成2099


片山由美子

 
  【火の話】 第2回  「かちかち山」(2)

 さて次の日、兎が唐辛子山で唐辛子味噌を作っていると、大火傷を負った狸がやってきて、「やあ兎め、見つけたぞ!」といった。すると兎は、自分は唐辛子山の兎なので、何のことかさっぱりわからないと答えた。別の兎であるというのであきらめて、狸は何か火傷の薬を知らないかと尋ねた。兎は自分が作っている味噌が火傷によく効くといって背中にたっぷり塗ってやった。唐辛子味噌だからたまらない。狸はふたたび火がついたかと思うような痛みに耐えきれず、悲鳴を上げながら逃げて行った。またもやしてやられた狸は、川で味噌を洗い流すと、何としても恨みを晴らそうと兎を探しまわった。
 今度は杉山で木を伐っている兎を見つけると、「よくもやってくれたな!」と飛んで行った。すると兎は、自分は杉山の兎なので知らないといった。狸はまただまされて、何をしているのか尋ねた。兎が舟を作って魚釣りに出かけるるのだというと、自分も魚を釣りたいので舟が欲しいといった。兎がそれなら泥を固めて作るといいとすすめると、泥を子ね始めた。ようやく出来上がった舟に乗って、兎と狸は川へ魚を釣りにでかけた。ところが、夢中で魚を釣っているうちに狸の泥舟は溶け出していた。気がついた狸は必死で助けを求めたが、兎に「ばあさまを殺した罰だ!」といわれ、舟と一緒にぶくぶく沈んでしまった。
 狸が懲らしめられるどころか溺れて死んでしまうのは共通の終わり方だが、途中がけっこうこまかい話もある。兎が、自分は白いので白木の舟を作っているが、黒い狸は黒い泥の舟がいいといったという話。漕ぎだした舟が川の真ん中へくると、兎が「杉の舟はぶんぐら、泥の舟はじゃっくら」と、舟べりを叩きながら歌い出した。すると狸も負けるものかと舟べりを叩いたので、泥の舟はぱくりとわれて沈んでしまったという話。兎が櫂で泥舟を叩いて沈めたという話。どれも容赦のない結末である。
 おばあさんがあっさり殺されてしまうところといい、兎も狸をだましてばかりで、話としては何とも刺激的だ。昔話は、必ずしも幼児向けのやさしいストーリーとは限らない。こんな話だったということを私はすっかり忘れていた。
 
    窯攻めの火の鳴る二百十日かな    廣瀬町子
  秋の暮業火となりて秬
(きび)は燃ゆ   石田波郷
   

 
 (c)yumiko katayama
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