火の歳時記

NO37 平成20930


片山由美子

 
  【火の話】第3回 「火焔山」(1)

 「俳句」十月号に有馬朗人氏の特別作品五十句「絹の道」が掲載されている。その中に火焔山の句がある。
    火焔山涼しき風の吹く日かな      朗人
  火焔山よりの熱風葡萄干す        同
 火焔山は、「西遊記」でお馴染みの山である。少し前にある会で、有馬氏は子供の頃から憧れていた火焔山までようやく行ってきたと、その感動を語られた。この二句はそのときの作品である。
 火焔山は中国の西端、新疆ウイグル自治区にある。シルクロードのトルファンで知られるところで、そのシンボルともいえるのが火焔山である。ウイグルの人々はこの山をクズルターダ(赤い山)と呼ぶ。山といっても高い山がひとつ聳えているのではなく、連山、というより赤い山肌が屏風のように立ちはだかっているのである。最も高いところで標高八五〇メートルだが、何と一〇〇キロも連なっているというのだから、その景観は想像がつくだろう。赤色砂岩でできているところから火焔山と呼ばれるのではあるが、山肌は地殻変動と風雨によって深く侵食され、夏になると気温が四十八度にもなることから陽炎が立ちのぼり、岩肌の襞がゆらめいてまさに火焔のように見えるという。





 「西遊記」でこの火焔山が登場するのは第五十九回である。つぎつぎと困難に遭遇しつつそれを乗り越えてきたきた玄奘三蔵一行は、西へ向かって道を急いでいた。そして、とある村までやってくると、秋もすっかり深まっているというのに、にわかに蒸し暑さを感じ始めたのである。土地の老人になぜこんなに暑いのかと尋ねると、「ここは火焔山といって春も秋もない。一年中暑いのだ」という。一行の目的地である西天は、火焔山から六〇里のところではあるが、火焔山を越えなければ行くことがでない。その火焔山のあたりは火がぼうぼうで、そこを通ろうものなら銅の頭に鉄の身体をもっていたとしてもどろどろに溶けてしまうと脅かされた。さて、どうしたものであろうか。
   

 
 (c)yumiko katayama
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