火の歳時記

NO44 平成201118


片山由美子

 
  【火の歳時記】第11回 「牡丹焚火」


 前回、福島県須賀川の「松明あかし」を紹介したが、同じ須賀川で、11月の第3土曜日に毎年行われるのが「牡丹焚火」である。火にかかわる行事としてはなかなか趣のあるものなので紹介したい。
 須賀川牡丹園には樹齢二百年を超える牡丹の古木三百種近く、七千株が植えられている。
花の盛りの五月には、広い園内にとりどりの牡丹の花があふれ、圧倒されるばかりである。ふつう、日本庭園や牡丹園と称するところで見るのは高さ四、五〇センチからせいぜい一メートルくらいのものだが、この牡丹園の牡丹は人の丈ほどあるものも珍しくはない。花の咲き方もさまざま、色もこれほど種類があるものかと驚くばかりである。いわゆる牡丹色はもちろん薄紅から臙脂まで、紅色系統だけでも何種類あるのかわからない。白あり、黄色あり、どの色が一番美しいかを決めることなど不可能である。
 牡丹と並び賞されるのが芍薬だが、両者が根本的に違うのは牡丹は木本であり、芍薬は草本であることだ。したがって、冬になると芍薬は地上部分がすべて枯れて消えてしまう。そして春になるとまた芽を出すというわけである。それに対して牡丹は葉が枯れ落ちても木の部分が残っている。枝の先端に冬芽ができ、春になるとそれがほぐれて葉がひろがる。牡丹の場合、いわゆる樹木とは見た目が違うこともあって、木質の部分を「木(ぼく)」と呼んでいる。
 樹齢二百年以上というのだから、牡丹の寿命はかなり長いことになる。しかし、当然のことながら毎年枯れてゆくものがある。また、剪定によって切り落とされる枝もかなりの量になる。これを乾燥、保存しておいたものを燃やすのが牡丹焚火なのである。美しい花を咲かせ続けてくれたことをねぎらい、枯れたものを供養するという意味もあるので、牡丹供養ともいう。牡丹には花の精が宿っているのではないかと思うことがある。以前、花のころの須賀川牡丹園を訪ねる機会があり、こんな歌を作った。
  誰もゐぬ径に視線を感じをり夕闇迫りくる牡丹園    由美子
 命を全うした牡丹の供養をしようというのはよくわかる。この行事は、長い間地元の人々だけで行われてきたが、いまでは広く知られるようになり、季語として歳時記にも載るようになった。牡丹の老木はかすかな芳香とともに紫色の煙を上げて燃え上がり、見守る人々にしみじみとした思いを抱かせる。過度に観光化するのではなく、静かに伝えていってほしい行事である。

  煙なき牡丹供養の焔かな           原 石鼎
  みちのくの闇をうしろに牡丹焚く       原  裕
  はなびらのごとき炎や牡丹焚く       小路智壽子
  紫の闇となりゆく牡丹焚く         市野沢弘子
  つぶやきて牡丹焚火の終りの火       山田みづえ
  暗闇のかぶさり牡丹焚火果つ         鷹羽狩行


 新しい季語は、すぐれた作品を得て認知されてゆく好例である。

Phot「環境庁 かおり風景100選より」
   

 
 (c)yumiko katayama
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