NO46 平成20年12月2日 片山由美子 |
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【火の話】第5回 「マッチ売りの少女」 |
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今回の火にかかわる物語は『マッチ売りの少女』である。結末はすぐに思い浮かぶにちがいないが、筋がおぼろげになっている人も多いのではないだろうか。ハンス・クリスチャン・アンデルセンがこの物語を書いたのは一八四〇年代だったということは紹介したとおりである。以下、ストーリーを簡単に追ってみるが、引用は結城浩訳による。 場面は、大晦日の、それも雪の降る寒い夜に、裸足の少女が歩いているところである。少女は家を出るときにはお母さんの大きな靴をはいていたのだが、馬車を避けようとしてなくしてしまったのである。 片方の靴はどこにも見つかりませんでした。もう片方は浮浪児が見つけ、走ってそれを持っていっ てしまいました。その浮浪児は、いつか自分に子どもができたらゆりかごにできると思ったのです。 マッチを買ってくれる人もいず、少女は寒さと空腹で震えながら街を歩き回るしかなかった。そして 遂に、とある街角で座り込んでしまったのである。かじかんだ手でマッチの束の中から一本を取り出 すと壁にこすって火を付けた。 ≪シュッ!≫何という輝きでしょう。何とよく燃えることでしょう。温かく、輝く炎で、上に手をかざすと まるで蝋燭のようでした。すばらしい光です。小さな少女には、まるで大きな鉄のストーブの前に実 際に座っているようでした。そのストーブにはぴかぴかした真鍮の足があり、てっぺんには真鍮の飾 りがついていました。その炎は、まわりに祝福を与えるように燃えました。いっぱいの喜びで満たすよ うに、炎はまわりをあたためます。少女は足ものばして、あたたまろうとします。しかし、──小さな炎 は消え、ストーブも消えうせました。残ったのは、手の中の燃え尽きたマッチだけでした。少女はもう 一本壁にこすりました。マッチは明るく燃え、その明かりが壁にあたったところはヴェールのように透 け、部屋の中が見えました。テーブルの上には豪華な磁器が揃えてあり、焼かれた鵞鳥はおいしそ うな湯気を上げ、その中にはリンゴと干しプラムが詰められていました。さらに驚いたことには、鵞鳥 は皿の上からぴょんと飛び降りて、胸にナイフとフォークを刺したまま床の上をよろよろと歩いて、あ われな少女のところまでやってきたのです。ちょうどそのとき──マッチが消え、厚く、冷たく、じめじ めした壁だけが残りました。少女はもう一本マッチをともしました。すると、少女は最高に大きなクリス マスツリーの下に座っていました。そのツリーは、金持ち商人の家のガラス戸を通して見たことのあ るものよりもずっと大きく、もっとたくさん飾り付けがしてありました。 マッチがともっているときだけ見える夢の世界で、少女は亡くなったおばあさんに会っていた。おば あさんは、少女を愛してくれたたったひとりの人だった。 「お願い、わたしを連れてって!マッチが燃えつきたら、おばあちゃんも行ってしまう。あったかいス トーブみたいに、おいしそうな鵞鳥みたいに、それから、あの大きなクリスマスツリーみたいに、おば あちゃんも消えてしまう!」少女は急いで、一たばのマッチをありったけ壁にこすりつけました。おば あちゃんに、しっかりそばにいてほしかったからです。 少女は、おばあさんに抱かれて輝きの中へ消えて行った。次の朝、壁によりかかったまま、少女は 眠るように凍え死んでいた。まわりに燃えつきたマッチが散らばっているのを見た人たちは、寒さの ために火をつけたのだろうとしか思わなかった。エプロンのポケットには、売り物のマッチの箱が残っ ていたにもかかわらず……。 少女がどんなに美しいものを見たのかを考える人は、誰もいませんでした。少女が、新しい年の喜 びに満ち、おばあさんといっしょにすばらしいところへ入っていったと想像する人は、誰一人いなかっ たのです。 |
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