火の歳時記

NO50 平成21113


片山由美子

 
  【火の歳時記】 第15回 新年

   初鶏の火の声あげて闇の中        鷹羽狩行
   新巻の炎のいろを宿しけり        若井新一
   キューポラの空に火のいろ去年今年    福島 勲
 平成二十一年が始まった。新年の火の句をいくつか紹介したい。この三句は比喩的に火を詠んだものだが、火にかかわる季語もある。代表的なのが「左義長」である。
   左義長の火の粉は星になりにけり     高木晴子
   どんど火に点火す一番星の下      山崎ひさを
   どんど火を煽る太平洋の風          同上
   どんど果つ全身に火の匂ひため        同上
   一夜経てどんど火のあとただ黝し       同上
   どんど待つ別の小さき火を焚いて     木戸 節
   煽らるる炎となつてどんど燃ゆ      廣瀬直人
 「どんど」「とんど」「どんど焼」などの呼び名で親しまれている「左義長」は小正月の行事のひとつで、十四日の夜、または十五日の朝行うところが多い。新年の飾りを焚くところから「飾焚く」「注連焚く」ともいい、子どもたちが飾りを集めて回るのが「注連貰」である。この火に書初めを焼べるのを「吉書揚」といい、燃えながら高く舞い上がると書の腕が上がるといわれてきた。
   おほわだは闇なほ解かず吉書揚      岡本 眸
   金箔の剥がれとびたる吉書揚       茨木和生


 さて、今年は中国で新年を迎えた。中国では旧暦で新年を祝うので春節のほうが賑やかだが、日本同様、大晦日に寺へ詣でて鐘を撞くことも行われている。新年は四日まで休みなので、その間に家族やカップルで寺へお参りするひとたちも多い。日本では灯明や線香を上げるが、中国では長い線香に束ごと火を点け、松明のようにかざしながら四方へ向かって祈りを捧げる姿が印象的だった。若いひとたちも真剣に祈っていた。最初の写真は杭州の霊隠寺の光景。
 蘇州の寒山寺では大きな朱蝋燭が点され続けているのが新年らしかった。ここでも、線香の束を押し頂いて祈りを捧げるひとたちが絶えなかった。


   

 
 (c)yumiko katayama
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