火の歳時記

NO54 平成21210


片山由美子

 
  【火の歳時記】 第18回 滝山寺鬼祭

 愛知県岡崎市滝町(たきちょう)にある滝山寺(たきさんじ)は天武天皇の命によって建立されたという天台宗の寺で、吉祥陀羅尼山という山号をもつ。ここで毎年旧正七日に近い土曜日(二月の第一土曜になることが多い)に鬼祭と呼ばれる火祭を行う。これは源頼朝の祈願に始まると伝えられ、修正会の結願の日に行われる鬼走りと田遊びが結合した行事である。天下泰平・五穀豊穣を祈り、いまでも三河路に春を告げる祭となっている。祭当日の行事は、行列、仏前法要、鬼塚供養(豆まき)、庭祭(田遊び)、火祭からなり、最後の火祭には祖父面、祖母面、孫面の三つの面を四十二歳、二十五歳、十二歳の男子がかぶって鬼役となり、松明をかざした約三十人の年男たちに追われて本堂の廊を逃げ回る。この面は運慶作といわれ、伎楽面を思わせる怪異な表情をしていて滝のように火をこぼす松明に追われるさまはすさまじいものがある。昭和二十九年に県から無形民俗文化財の指定を受け、各地の追儺とはいささか趣を異にする行事となっている。愛知県ビデオコンテンツにアクセスすれば火祭の様子を見ることができる。
          

  鬼祭火の粉が星にとびかかる      山本白雲
  火祭の火の粉たばしる廊阿修羅     黒柳美村
  火祭の火の粉に焦げし頬被り      中根映砂


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 (c)yumiko katayama
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