火の歳時記



NO57 平成2133





片山由美子

 
  【火の話】第7回 ヴァレンシアの火祭

 春の火祭は日本だけではない。ヨーロッパでは、スペインのヴァレンシアで行われる火祭が有名である。
 この火祭の起源は必ずしも定かではないようだが、一説には、木工業者たちが春になると木屑を燃やしたのが始まりという。十三世紀のことである。木工職人たちは、冬のあいだ屋内で仕事をしなければならないので木っ端を燃やして明かりにしていたが、春になり、外で仕事ができるようになると、あまった木片や作業で出た木屑を一緒に燃やしたのだという。それがヴァレンシアに春を告げる風物詩となり、やがて火祭として三月十九日に行われるようになったのである。火祭(ファジャあるいはファリャ)の別名を「サン・ホセの火祭」というのは、職人たちの守護聖人がサン・ホセであることから。三月十九日はサン・ホセの祝日である。当初は一日だけだった祭は、行事として盛り上るにつれて二日となり三日となり、いまでは一週間にわたり開かれている。前日の十八日には、市民の女性たちによる聖母マリアへの献花祭の行列も行われるようになった。
     
 祭の特徴は、さまざまな木製の人形が登場することである。人や動物や物語の主人公など、とりどりの人形が張りぼてのお城などとともに街に飾られ、これを見て歩く人たちでたいへんな賑わいとなる。
あああああ
 この人形をはじめとする装飾はどうするかというと、最終日の夜十二時にいっせいに火をつけ、燃やしてしまうのである。これに花火も加わるのだから、街中が燃え上がらんばかりである。
 熱狂した人々はワインを飲み、踊り出し、いかにもスペインらしい祭の盛り上がりとなる。日本では近ごろ、この祭を見に行くツアーもたくさん出ている。
     
   

 
 (c)yumiko katayama
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