火の歳時記

NO67 平成21512


片山由美子

 
  【火の歳時記】第26回 火の味


  はつなつや菓子に炎の味のして       片山由美子

 先日、友人と食事をしていたときのこと、デザートを一口食べた彼女が「これ、炎の味がしない?」といった。さもありなん、それはクレームブリュレだったのだ。カスタードクリームに砂糖をふりかけバーナーで焼き付けた、あのこってりと甘いお菓子である。火を食べたことがあるのかとか、大道芸の火噴き男ではあるまいし、などという話になったのだが、炎が表面に触れるのであるから、確かに香ばしさを通りこして火の味がする。
 火や炎の味がするなどというのは食べ物をほめたことになるのかどうかと思っていたところ、ある白ワインの味の形容に「焚火の味」というのがあって納得したしだいである。ワインの特徴をいうには、秣や黴の匂いとかいろいろな要素があるが、マイナスイメージのものでも重なるうちに微妙な味わいを醸しだすということらしい。焚火の味もなかなかよさそうである。焚火の味といわれたら焼芋くらいしか思い浮かべないところだったが、これは新鮮な驚きだった。

  草餅を焼く天平の色に焼く          有馬朗人

 この草餅も、食べたら火の味がしそうだ。草餅はそのまま食べるより、焼いたほうがおいしい。少し焦げるくらいに焼くと餅がべたつかなくなるのがいい。緑から茶色まで色のグラデーションも趣がある。作った翌日は焼くにかぎる。
 地元福岡の俳人の句で、「水城」は大陸からの攻撃に備えて築かれた土塁。大宰府には七世紀に造られたものの遺構がある。その水城の向こうから上ってくる月が古びて見えたのも菜殻火の明るさゆえであろう。火の勢いが思われる。二句目は、暗くなっても続く作業の様子がうかがえる。

  笹鳴や強き火きらふ煮つめもの        鷹羽狩行
  弱火で煮るものの多くて冬の暮        桂 信子
  秋雨の瓦斯が飛びつく燐寸かな        中村汀女
  
 台所の火が見えてくるような句もある。汀女の句は火や炎ということばはないが、「瓦斯が飛びつく」によって着火の瞬間の青い火が目に浮かぶ。着火装置など着いていなかった時代の台所では当たり前の光景だったが、子供のころ、マッチで火をつけるときにガスの火に手を包まれそうで怖かった。火をつけたマッチ片手にガス栓を開くのだが、ぐずぐずしていたのではマッチがますます短くなる。手際よく火が着けられるようになると一人前のような気がした昭和の光景である
  
  火を通すものをまじへて夏料理        鷹羽狩行

 涼しさが命の夏料理とはいえ、火を通してから冷やすもの、熱々のまま膳にのせる物とさまざまである。

  噎せて火の玉のごとしや麦こがし       鷹羽狩行

 
こんな比喩としての「火」もある。



   

 
 (c)yumiko katayama
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