火の歳時記

NO70 平成2162


片山由美子

 
  【火の歳時記】第29回 烏賊釣火

 烏賊は夜、水面近くにいるので灯を点すと集まってくる。そこで烏賊釣船は夕方から沖へ出てゆき、集魚灯を点して漁を行う。「烏賊釣火」「烏賊火」と呼ばれるその明りは前回紹介した「夜焚」のひとつである。

  烏賊釣りの船百灯を掲げ出づ          竹村忠吉
  
 集魚灯にはいろいろな種類があるが、ハロゲンランプなど昼間かと思うほどの明るさとなる。しかし燃料もかなりかかるそうで、ちかごろでは発光ダイオードが使われるようになってきている。
  
  烏賊釣のわが灯ひとつにつゞく闇        米澤吾亦紅

 これは珍しく烏賊釣の船からの視点で詠んだもので、ふつうはつぎのような句になる。

  船縁の修羅場は見えず烏賊釣火         柳井満智子


    

 岸からは沖に連なる灯が見え、夏の風物詩となっている。

  烏賊釣火遠流の島を囲みけり          吉野勝子
  ゆふづつの如くにとほき烏賊火あり       大星たかし
  烏賊釣る灯原始の海に連なれり         佐藤あい子
  烏賊火より遠き灯のなし日本海         吉原一暁
  烏賊釣火同じ遠さに増えにけり         河野青華
  明け方は西へと寄りぬ烏賊釣火         松林朝蒼


 彼方から見ていると、それが労働の場であることを忘れるほど幻想的に思えてくる。烏賊釣が独立した季語になっている所以であろう。

   

 
 (c)yumiko katayama
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