火の歳時記

NO74 平成21630


片山由美子

 
  【火の歳時記】第33回 毛虫焼く

  蛇や毛虫が嫌いという人は少なくない。蜘蛛も苦手、ゴキブリが怖いという話もよく聞く。ところが、それらにとどまらず、蛆虫、ボウフラ、南京虫、芋虫と何でも詠んでしまうのが俳句である。毛虫も、単に毛虫ではなく、「毛虫焼く」が季語になっているのには驚くばかりである。
 
  人間派転じて樹木派毛虫焼く          石田波郷
  眉上げて毛虫を焼いてゐたりしか        安住 敦
  毛虫焼く火を青天にささげゆく         平畑静塔
  葬送を終へてこの世の毛虫焼く         大屋達治
  毛虫焼くちいさき藁火つくりけり       川島彷徨子

 
 成虫が農作物や樹木に害を与えるというので幼虫のうちに駆除するのだが、薬を散布しているのを見ても関心のなさそうな俳人たちが、焼き殺すということになるのにわかに目を輝かせるのである。「毛虫焼く」ということばが俳句的感興を掻きたてるらしい。
 
  毛虫焼く()の雨雲にふれにけり         石原舟月
  ネロの兄お七の妹毛虫焼く          加藤三七子
  ぼろぼろの炎かなしみ毛虫焼く         原  裕
  火のつきし毛虫の上を毛虫這ひ         田口紅子

  美しき耶蘇名をもちて毛虫焼く         沖 祐里
 
 体が針のような毛に覆われているところから毛虫といい、おおかたは蛾の幼虫であるが、例外的に岐阜蝶は蝶であるにもかかわらず毛虫状である。茶毒蛾や松毛虫のように毛が刺さるとかぶれるものもあるが、じつは毒をもっているものは案外少ないのだという。成虫になっても別段害をおよぼさないものもいる。ところが幼虫は毛虫といううだけで毛嫌いされ、焼かれなくてもよいものまで焼き殺されているのではないかと心が痛む。
 
  美しき毛虫を愛す焼くまじく         片山由美子




   

 
 (c)yumiko katayama
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