火の歳時記

NO78 平成21728


片山由美子

 
  【火の歳時記】第37回 夏の山火事


  火事は冬の季語である。雨が降らず、乾燥注意報が出るようなときは山火事も起きやすい。捨て煙草から思いもかけぬ大火事になることもある。
 日本では考えられないことだが、外国では気温の上昇によって夏に山火事が起きることが少なくない。最近もスペイン、フランス、イタリア、ギリシャ、トルコなどで大規模な山火事が発生している。地球上で最も気温が高いのは必ずしも赤道直下ではない。これまでの最高気温の記録はイラク南部のバスラの58.8℃である。平均気温が最も高いのが8月のクウェートの36.7℃という。平均だから当然これ以上になる日もあるわけだ。これが森林地帯なら大変なことになるが、ほとんどが砂漠地帯なので山火事は起こりようがない。森林火災が度重なって砂漠化するということも考えられるのである。
 山火事の多いヨーロッパ南部は、気温が35℃以上になることも珍しくない。気象条件によっては40℃近くにもなるので山火事が起きやすい。イタリアで山火事を目撃したことがあるが、ヨーロッパが猛暑となった年で、ミラノあたりは都会ゆえの気温上昇を招いていた。アスファルトが照りつける太陽で柔らかくなってしまい、歩くと舗装のうえに足跡がついたほどである。目眩がするほどの熱気で、山火事が起きるのも無理はないと思った。
 アメリカではロスアンジェルスなど、都市のすぐ近くで山火事が発生することもある。消火にあたっては、空からヘリコプターで散水したり、消火剤などを撒くしかない。これも広範囲に広がってしまった場合は効果がなく、自然鎮火を待つしかない。アメリカやオーストラリアでは、気温上昇だけでなく落雷による山火事も含め、これも自然現象であることから無理な消火を避ける傾向にある。人命にかかわる場合は別だが、地球の歴史を考えれば、そうしたことを繰り返しながら自然というものは変化するということになるからだろう。ロシアやインドネシアなど、泥炭の埋蔵量が多いところでは、いったん火事が起きると地中の亜炭や褐炭がくすぶり続け、資源を大幅に減らしてしまうという現実的かつ深刻な問題が起きている。地球温暖化による気温上昇によって自然火災が起きやすくなっているとしたら、これは放置するわけにはいかないのである。

  炎天の火の山こゆる道あはれ         水原秋桜子
  遊牧の民が火を焚く炎天下          佐川宏治
  ただ灼けて玄奘の道つづきけり        松崎鉄之介


   
 
 (c)yumiko katayama

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