火の歳時記

NO79 平成21811


片山由美子

 
  【火の俳句】第2回 最近の句集から

  近刊の句集で出会った火にかかわる句を紹介したい。
 
   榾はぜて湯立神事の神散らす     伊藤伊那男『知命なほ』
   雁風呂を焚くころといふ誘ひかな
   翅たたみ訃の使者めける火取虫
   みちのくや迎火に足すこけし屑
   埋火とならむ雨夜の蛍火は
   火事見舞とて藁?の生卵
   久女の墓ならば狐火点るやも
   くらければくらきへ鼠花火かな
   炭はぜて遠野物語は佳境
   焼いて煮て神饌の田鮒や秋祭
   山国は山の高さにとんどの火
   焼畑に助走の長ききぎすかな
   牛の眼に阿蘇の噴煙牧開き
 
   栗爆ぜる炭も火鉢もなかりけり    亀田虎童子『色鳥』
   餅焦がす好々爺になどなるものか
   鯛焼やひと足ごとに日の暮れし
   字足らずはこころ足らずや餅を焼く
   焼印の匂ふばかりや登山杖
   枯葦原火をまぬがれし葦の立つ
   百足虫焼くついでの反故をひとつかみ
 
   火と水の神来て朧はじまれり     酒井弘司『谷風』
   てのひらの梔子の実よ火の匂い
   火の記憶八月の闇幾重にも

   野火止めの水を吸いあげ桜咲く
   四万十の闇をきりさく火振りの火
   龍の玉火のごとき言葉一つ欲し
 
   火柱のごとき没日や寒蜆       中岡毅雄『啓示』
   あらたまの火のまなかひに榊鬼(奥三河・花祭)

 
 本人は意識していないのではないかと思うが、意外に多い人と少ない人がいて興味深い。また、扱い方に個性が現れているのも面白かった。

   
 
 (c)yumiko katayama

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