感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第3回 2009/02/15

 原句  冴返るビルの谷間の小さき富士

 都心から見た真っ白な富士山です。空気の澄んだ日には、びっくりするほど近く見えますが、春は水蒸気が多くなって、見える日が少なくなります。
 この句の季語は、「冴返る」で春季です。「冴ゆ」が寒さをいう冬の季語なので、その「冴え」が戻ってきたわけです。「寒の戻り」などと同じような意味ですが、より感覚的な感じがします。この句の内容にふさわしい季語です。
 問題は、「ビルの谷間」です。比喩の表現ですが、定着した常套句になっていますから、俳句の言葉としてどうでしょうか。もっと写生的な表現の方が、景が新鮮に見えてくるのではないでしょうか。
 そこで「谷間」を普通に「「間」とします。「間」と書いて「あいだ」「ま」と読みますが、文語的な表現で「あい」「あわい」とも読みます。この場合は「あわい」と読んでもらえることを期待してみましょう。また、「あはひ」と歴史的仮名遣いにしてもいいでしょう。

 添削例 冴返るビルの間の小さき富士

 


 原句  春の土踏みゆく鳩の足赤き

 黒々とした土の上をゆく鳩の足。その赤さに焦点をしぼった句です。春らしい瑞々しさが感じられます。
 残念なのは、なんとなく平板で、俳句らしい余韻が足りないことです。
 さて、どこで、言葉を響かせましょうか。「春の土」でいったん切ってみましょうか。その場合は下五を「足赤く」と連用形にします。

 添削例 春の土踏みゆく鳩の足赤く

 それとも鳩の足の赤さをもっと強調しましょうか。それなら、下五を「赤き足」とします。こうすると上五と下五がともに修飾のある体言になってしまいますから、言葉が多すぎてうるさいかもしれません。上五を四文字の季語で考えてみます。「春泥」あるいは、「下萌」「草萌」はどうでしょうか。

 添削例 草萌を踏みゆく鳩の赤き足


 
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