感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第6回 2009/03/08

 原句  初花を娘の写メール上野発

 ケータイも写メールも俳句によく詠まれるようになりました。その是非を決めつけることはしませんが、これらの言葉そのものがすでに説明的に思えることが多く、なかなかいいと思う句に出会えていません。
 けれど、ここではこのまま「写メール」という言葉を使ってみます。
 この句は中七の「娘」を「むすめ」と読んでも「こ」と読んでも音数があわず、一読して戸惑います。
 ただ、「上野発」で、おそらく花見の名所である上野から、お嬢さんが初花のメールを送ってきたのだろうと想像できます。
 けれど、それは俳句として鑑賞したのではなく、言葉の羅列をヒントにして情景を想像したに過ぎません。
 奇抜な比喩などを使い、謎かけのような楽しみ方をするのは、近世の俳句でも盛んでしたが、この句はそんなつもりで作っているわけではありません。あくまでも娘さんからの初花の写真が添付されたメールを喜んでいる素朴な心持ちを表現しているのだと思います。
 まずは一句の焦点を季語の初花(初ざくら)に定めましょう。初花という季語の力で「写メール」という報告的な言葉、また「上野発」というやや俗な言い回しを、俳句の言葉にしてしまいましょう。娘を「こ」と読ませることに抵抗があれば「子」とすればいいでしょう。。

 添削例 上野発娘の写メールの初ざくら

 


 原句  冴え返るかすかな音に水揺るる

 繊細な感覚の句です。
 「冴え(冴ゆ)」は冬の季語で、春になってから、寒さが戻ってくることを「冴え返る」といい、春の季語になっています。
 水面を見つめていたら、なにかかすかな音がして、揺らいだのでしょう。鯉かもしれませんし、上からなにか降ってきたのかもしれません。その一瞬の景に春の寒さを感じています。
 この句は上五の季語で切れているのですが、その切れが弱く、全体に平板な感じがあります。そこで、下五の動詞の活用を工夫してみます。
 ここを連用形にすると、上五での切れがはっきりして、一句に余韻も生まれるのではないでしょうか。作者の心の動きがすっと伝わってきます。

 添削例 冴え返るかすかな音に水揺れて

 


 
(c)kyouko ishida
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