感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第9回 2009/03/29   

 原句  切り株をならべてゐたる花なづな

 一句の主語が省かれている場合は、たいてい作者自身が主語となりますが、作者が切り株をならべているはずはありません。そうなると、「花なづな」が切り株を並べていることになりますね。
 そう読み取った場合、機知のかなり働いた句になります。つまり、まるで薺の花が切り株を並べているようだという受けとりかたです。
 けれど、どうもそのつもりではなさそうです。作者は目の前の景を描写したかったのではないでしょうか。だとしたら素直に表現してみましょう。
 切り株がいくつか並んでいて、そのまわりにびっしりと薺の花が咲いている情景です。

 添削例 切り株の並んでゐたる花なづな

 


 原句  野茨の芽吹きの葉つぱも整ひて

 この句は「芽吹きの葉つぱ」と言っているので、少々混乱気味です。また、「葉つぱ」という言葉はなるべく俳句に使わない方がよいでしょう。
 私達が見たのは茨の小さな葉がひろがりはじめているところでした。「薔薇の芽」は赤くすぼまった形で立つので「薔薇芽立つ」という傍題もありますが、茨の芽は園芸種の薔薇と違って緑色のことが多く、割合すぐに葉をひろげるようです。
 作者はそこに気付いて、俳句に詠もうと試みたのです。こまやかな観察ですね。
 野茨や芽吹きたる葉の整ひて
 これでも伝えるべき事は伝わるかと思いますが、説明的な表現を避けて、形容するとしたら、こんないい方も可能でしょう。ぜひ自分の感覚で表現を見つけてみてください。

 添削例 こまごまと芽吹いてゐたる茨の芽
 

 


 原句  春の風思ひ思ひの散歩かな

 何人かで連れ立って吟行していたときの情景で、擦れ違う人たちもそれぞれにうららかな表情で散策していました。
 この句で気になったのは「散歩」です。
 「散歩」なのですから「思ひ思ひの」は不要です。けれど、この句で一番言いたかったのは散歩ではなくて「思ひ思ひの」でしょう。
 そこで、散歩という説明は避けます。

 添削例 春の風思ひ思ひの歩みかな


 
(c)kyouko ishida
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