感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第11回 2009/04/12   

 原句  さくら旅陸奥までも滝桜

 桜の開花宣言があると、そわそわし始める人は多いでしょう。作者も、今年こそあの名高い桜を見に行かなくては、と心づもりをし、旅行に出ることを楽しみにしていたのでしょう。思いが余って「さくら」と「滝桜」で二つ季語が入っているくらい、この句にはそんな気持ちが強くこもっています。
 ただ、すぐに見当がつくものの「さくら旅」とはあまり耳にしないことばです。歳時記には「花の旅」ということばがありますから、これを使いましょう。

 添削例1 花の旅陸奥までも滝桜

 もうひとつ焦点がぼやけている感じなのは、「陸奥までも」です。中七で切れて「さくらを見る旅に陸奥にまでもでかけていこう」という意味にも、上五で切れて「遠い陸奥までも滝桜を見にいこう」という意味にもとれます。前者の句意とすると、「滝桜」がやや唐突ですし、後者の句意だとすれば省略の仕方に無理があります。ふつうに考えれば、後者の句意でしょう。

 添削例2 陸奥の滝桜まで花の旅

 これだと句意だけははっきりしてきます。
 この先は一句の世界を突き詰める試みです。語順を変えてみます。

 添削例3 花の旅陸奥の滝桜まで

 ここで「花の旅」と「滝桜」の季語の重なりを考えてみます。

 添削例4 この旅の陸奥の滝桜まで
 
 これで一応の仕上がりでしょうか。けれど、考えてみれば陸奥の滝桜とまで言っているのですから、「旅」は余分なのではないでしょうか。ふと、句を呟いてみてこんなふうにひらめきました。次の句の「たび」は、「旅」ではなくて「度」の意味です。

 添削例5 このたびは陸奥の滝桜まで



 
(c)kyouko ishida
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