感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第12回 2009/04/19   

 原句  亀鳴くや地を這ふものはみなかなし

 「亀鳴く」という席題で詠まれた句です。
春のものうい気分が感じられて面白い季語ですが、どんな内容にもそれなりにマッチするような気がして、これぞという句を得るのは難しいかもしれません。
 しかし、題詠で詠まれたのにもかかわらず、この句には作者の心情がこもっています。かなしいと感じたのは小さな生きものたちの生であり、ひいては、高いところから見れば地を這うように見えるであろう人間、作者自身の生にも思いは及んだのでしょう。題詠で俳句を詠むとき、季語に触発されて心の奥底にあった思いがふと湧き出てくることも多いのです。
 さて、この句ですが、このままでも十分に作者の言いたかったことは言えています。ただ、「地を這ふものは」の「這ふものは」は何度も読んでみると、どこか散文的に感じられてきます。
 この句には、「鳴くや」の「や」、「地を」の「を」、「這ふものは」の「は」と三つの助詞が使われています。助詞は語句と語句との関係を示してつなげる働きをしますが、意味を強めたり、完結させたりする場合もあります。この句では、読み下すときになんとなく「這ふものは」のあとに句読点が入る感じです。句読点が入る感じとはつまり文章として読んでしまうということです。
 ちなみに、「鳴くや」のあとには一文字分の空白、すなわち詠嘆・余韻があり、「地を」のあとには何も入らずにすぐ「這ふ」の動詞が繋がっていきます。
 「は」の助詞としての働きが、「みなかなし」という表現の味わいを弱めているのではないかと私は思うのです。そこで助詞を変えてみます。限定した感じ、強調した感じ、つまり作者の言いたいことを強める感じがなくなります。

 添削例1 亀鳴くや地を這ふもののみなかなし

 けれどこれだと今度は言い足りない気もしますね。
 私ならいっそのこと助詞を省いてしまいます。次の添削例の「這へる」は、動詞「這ふ」に、継続の意味を表す助動詞「り」の連体形「る」を接続した形です。散文ならば舌足らずの表現でも、韻文としては成立します。
 これで、「這うものは」の意味から「這っているものは」の意味に変わり、一句の調べも高くなるかと思います。

 添削例2 亀鳴くや地を這へるものみなかなし
 
 


 
(c)kyouko ishida
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