感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第15回 2009/05/10   

  原句  ゆぶねに張り八十八夜の水の色

 八十八夜は立春から八十八日目の日のこと。今年は五月二日に当り好天に恵まれましたが、「八十八夜の別れ霜」というように思わぬ寒気に見舞われることもあります。かつては稲の種を蒔く頃として農事もにわかに活気づいたことと思いますが、一般には、八十八夜といえば茶摘みを連想することの方が多いでしょう。いずれにしても農事に大きくかかわる季語です。
 この句には、季語の本意を踏まえた五穀豊穣への祈りや自然の恵みへの感謝が感じられました。「水の色」に心をとめた作者の感性にも魅力があります。
 ただ、湯槽に張った水の色と言われてもどうも想像しにくく、なにかもどかしさも感じます。
 この場合は色まで言わなくても、「八十八夜の水」としただけで十分詩情のある句になるのではないでしょうか。「ゆぶね」は「湯槽」と表記してみます。一字のみの添削です。

 添削例1  湯槽に張り八十八夜の水の嵩

 あるいはもう少しやわらかく、

 添削例2  湯槽に張り八十八夜の水豊か
 
 字余りも作者の個性ですが、もう一つ思い切って添削しておきます。

 添削例3  八十八夜湯槽に水を満たしけり

 次の添削例は私流です。

 添削例3  八十八夜湯槽に水を満々と

 水平線

(c)kyouko ishida
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