感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第19回 2009/06/07   

  原 句  老鶯や百八の谷(やと)謳ひあぐ

 老鶯というのは、夏に鳴く鶯のこと。「老」の字を冠するのは、鶯が春を告げる鳥として春の風物になっているため、「夏にはやや声が衰えるとして」という意味合いだと歳時記に解説してあります。漢詩のことばです。
 「夏鶯」といういい方もあり、実際には夏になると鶯は山地に移って繁殖期を迎え、春先の初々しい声とは違った華やかな声で朗々と歌います。「老」の意味を「老練」に近い意味で読み取ってもよさそうだなと、私は思っています。
 さて、この句ですが、下五の「謳ひあぐ」の表現で作者の言いたかったことを強調しています。
 感動を伝えるのに効果をあげるはずの上五「や」の切字は、この場合「は」または「の」という助詞と同じ意味で使われていることになります。
 ところが作者としては上五の「や」を切字として用いたつもりでした。
 それならば、基本の形として下五を連用形に

  添削例1  老鶯や百八の谷謳ひあげ

とします。
 もう少し推敲してみます。
 「老鶯」といえばもう鳴き声を表現していることばですから、この句の場合中七以下で「老鶯」の説明をしているのです。
 この句の魅力は「百八の谷」というスケールの大きさでしょうから、思い切って次のようにしてみます。
 
  添削例2
  老鶯に百八の谷ありにけり

  

 原 句  見上げれば樟の木花を降らせけり

 楠の木にも花が咲き、実が生りますが、大樹なので、地面にこぼれた花で、花の咲いたことに気づきます。
擬人法を用いて表現した作者と一本の木との存問は、読者の心に響きます。
けれど、この句はちょっと長ったらしく感じませんか。

 添削例1  見上げたる樟の木花を降らせけり

これでも少し変わりますが、「見上げる」という複合の動詞は「仰ぐ」という動詞にも置き換えられます。 

 添削例2  仰ぎたる樟の木花を降らせけり


 水平線

(c)kyouko ishida
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