いしだ |
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第22回 2009/07/05 あ | |||
原 句 蛍は以前、夏になれば当たり前に見られたといいます。河川の整備などで知らず知らず消え、見られなくなったことにようやく気づいて、かつての蛍狩りを懐かしむ人も多いでしょう。蛍を見にわざわざ泊まりがけで出かけることもあります。この句はそうやって蛍に出会った人の感動の一句。蛍を見ているうちに作者の胸の中にも蛍の火が点ったような気がしたのでしょう。 ところが、この句を見ても作者の感動はあまり伝わってきませんでした。なぜでしょうか。 中七の無造作な表現が詩情をそこなっているのではないでしょうか。蛍の火がぴかぴか点滅しているという報告になってしまいました。 心の動いた瞬間をとどめましょう。蛍の火が消えたとき、読者の胸の中の闇も深々と広がってゆきます。 「胸の闇」は使い古された既成の言葉で、なるべく避けたいところではありますが、この句の場合は必要です。 添削例 蛍火のついて消えたる胸の闇 原 句 この句は蛍の飛び方を観察していて、その特徴をよくとらえています。「闇を掬う」、たしかにそんな感じがします。 「林の」という説明は省略した方が、この発見が生きます。 添削例1 ほうたるの闇を掬つてゐたりけり さて、掬っているのが蛍だということは考えればわかることですが、瞬時に景が浮かぶかどうか、このままではちょっと心配です。やや主格が曖昧でしょうか。その場合はいっそのことはっきりと。 添削例2 ほうたるが闇を掬つてゐたりけり これでもいいと思います。 添削例3 ほうたるが闇を掬つてゆきにけり |
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(c)kyouko ishida | |||
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