感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第24回 2009/07/19   


  原 句  昼灯し主なきピアノ梅雨湿り

 梅雨時の湿りは、そのまま「梅雨湿り」という季語になっています。
 この句は上五が「昼を灯して」という連用形なのか、「昼の灯」という意味の体言なのか、ちょっと迷うところです。
 体言だとすると三段切れになります。動詞の連用形ととると散文的で長い感じがします。
 言葉を一つ略してみます。

  添削例  (ひとも)して主なきピアノ梅雨湿り

 

  原 句  あめんぼの水輪にとんぼ影写す

 あめんぼが夏の季語、とんぼは秋の季語ですが、あめんぼが主季語かと思われます。写生しようとして、この句も少しごちゃごちゃしています。
 影を写すとはどういうことなのか。その上を飛んでいったわけですから、ここは省いても情景として自然に想像できます。

  添削例  あめんぼの水輪をとんぼよぎりけり

  

  原 句  山鳩のどこかで啼けり青時雨

 「青時雨」は青葉時雨のこと。雨ではなく、青葉の雫がぱらぱらと時雨のように落ちてくることです。
 山鳩の独特なさびしいような、また睡りを誘うような鳴き声。その感じを中七の表現で上手に描いていて、このままで詩情のある作品かと思われますが、何度か読んでみると、「どこかで」が詩の言葉としては説明的に思われ、気になってきました。おそらく「啼けり」がはっきりと文語の表現だからそう感じるのだと思います。もちろん意志的に文語表現の中に口語的な表現を取り入れてもいいのですが、作者としてはどうなのでしょう。案外不用意に述べているのではとも思います。
 かといって「いづこかに」という表現では一句が重々しくなってしまいます。
 この推敲例は「どこだろう。啼いているよ」という意味です。

  添削例  山鳩のいづこか啼けり青時雨


 水平線

(c)kyouko ishida
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